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講演会「コロナ禍は演劇文化に何をもたらしたのか──ドイツと日本の事例──」の報告

報告:石田圭子

開催日:2021年12月9日 

開催場所:神戸大学国際文化学研究科


本講演は講師としてアンネグレット・ベルクマン氏(Prof. Dr. Annegret Bergmann)(東京大学大学院人文社会系研究科・特任准教授)を招き、2021年12月9日に神戸大学国際文化学研究科で同研究科研究推進センターの協力の下で行われた。ハイブリッドで行われた講演には約50人が参加し、講演後には講演の内容をめぐって活発な議論が交わされた。

日本の演劇に関して浩瀚な知識をもつベルクマン氏による今回の講演では、コロナ禍の下でのドイツと日本の演劇界および政治の取り組みが比較検討され報告された。第1部では、両国の劇場への援助策が事例を交えて紹介され、第2部では、この危機がもたらした演劇界の問題に焦点が当てられた。

コロナ禍のなかで行われたドイツの手厚い文化支援政策は、日本でも多くの人が知るところになったと思う。本講演ではそれが具体的に説明されたほか、ドイツの演劇界の具体的な努力が紹介された。なかでも報告者がもっとも興味深かったのは、パンデミックの危機的状況のなか、フォルクスビューネ総監督による権力濫用というスキャンダルをきっかけに、劇場における権力構造と多様性についての議論がさかんに行われたという事実である。

それと並んで興味深かったのは、それとの関連においてベルクマン氏が取り上げた、ドイツ演劇界における男女間の不平等という問題である。例えば、女性のフリーランス・アーティストの場合、女性の収入は男性よりも24%少なく、ドイツの舞台監督の女性の割合は全体の3分の1程度を占めるにすぎない。そして、多くの女性指導者たちが、厳しい指導が男性よりも批判されやすいなどの悩みをもつ。また、女性たちはキャリアと仕事の両立という問題も抱えており、ある女性監督によると、いまだに「働く母親は悪い母親である」という通念が蔓延しているという。いうまでもなくそうした状況は日本では領域を問わず当たり前のものだが、男女の機会均等が進んだドイツでもなおそうした意識がいまだ根強くあるという事実を報告者は知ることになった。

しかし一方で、ドイツの場合、文化の世界でもクオータ制をめぐって積極的な団結と議論がなされるなど、前進的な動きも見られるということである。そうしたドイツ文化界の最近の動向は、コロナ禍による危機的状況によって炙り出されたものであるが、ベルクマン氏も指摘していたように、むろん近年の#Me Too運動に後押しされたものでもあるだろう。

近年日本の映画界でも、女性俳優への男性監督などによる性的加害が明らかになりつつある。本講演は、文化の世界におけるそうした問題の根深さと、今後そうした状況を改善するために具体的に何をすればいいのかを参加者に考えさせてくれる好機になったと思う。この場を借りてベルクマン氏に深く感謝申し上げたい。

                                                       (石田圭子)

広報委員長:香川檀
広報委員:大池惣太郎、岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2022年6月30日 発行