トピックス

愛知県芸術劇場 ダンス・スコーレ特別講座シンポジウム ダンスと人形 アヴァンギャルドはモノと動きをどのように捉えていたか

報告:山口庸子

日時:2023年3月18日(土) 13:00〜17:00
場所:愛知芸術文化センター アートスペースA (12階)
主催:科学研究費「歴史的アヴァンギャルドの作品と芸術実践におけるジェンダーをめぐる言説と表象の研究」(基盤B:19H01244、研究代表者:西岡あかね)、「身体と『モノ』から見たドイツ語圏芸術人形劇の総合的研究」(基盤C: 20K00148 研究代表者:山口庸子)、愛知県芸術劇場
共催: 東京外国語大学総合文化研究所、名古屋大学大学院人文学研究科

発表者:西岡あかね(東京外国語大学)、河村彩(東京工業大学)、角山朋子(神奈川大学)、山口庸子(名古屋大学)、海老根剛(大阪公立大学)
司会:香川檀(武蔵大学)
コメンテーター:唐津絵理(愛知県芸術劇場)


本シンポジウムは、好評であった昨年、一昨年に引き続き、愛知県芸術劇場の学芸員である唐津絵理氏の参加を得て、愛知県芸術劇場との並び主催とし、芸術劇場が企画・運営する「ダンス・スコーレ」と連携して、その「特別講座」という位置づけで開催した。

最初に唐津氏から挨拶があり、紛争が続く世界の現状などを通して、社会と芸術の関係についての考え方が示された。次いで、山口が趣旨説明を行った。20世紀初頭の社会的危機に際して、アヴァンギャルド芸術では、踊る身体や人形的な身体がしばしば「新しい人間」のモデルとして登場する。そこで、踊る主体でありモノでもある人間の身体と、非生命的なモノでありつつ動く(もしくは動かない)人形に着目し、同時代の身体像の揺らぎや、「人間」と「モノ」との関係の変容について再検討することを述べた。

発表では、まず西岡あかね氏が、「村山知義とニディ・インペコーフェン」として発表した。1920年代のドイツで活躍した舞踊家インペコーフェンについて、プリッツェル人形を模倣した舞踊などでは、舞踊の内部と外部で「生命のない物体と生きた身体の越境的表現」が認められること、また村山知義の「意識的構成主義」にインスピレーションを与えたことが示された。河村彩氏は、「ロシア・アヴァンギャルドの衣装と身体表象」と題して、「人間のもの化」という観点から論じた。1910年代のマヤコフスキーの朗読パフォーマンスやエクステルの舞台衣装などに認められる「人間の身体のキャンパス化」に対し、革命後の1920年代の傾向は「人間の身体の機械化」であり、カンディンスキーの影響を受けたキネマロギヤ研究や、フォレッゲル、メイエルホリドらの例が示された。角山朋子氏は「ウィーンの近代デザインとダンス」で、1920年代にウィーンの美術工芸学校のフランツ・チゼック教授を中心に活動し、身体やものの運動のリズムから芸術作品を構築することを目指した「ウィーン・キネティズム」派について報告した。そのメンバーの一人、女性画家クリーンにはマリオネット劇場の構想があり、抽象的な人間や人間以外の登場人物が認められるのである。山口の「モダンダンス、芸術人形劇、アニメーション―ロッテ・ライニガーをめぐって」では、影絵人形アニメーション作家ライニガーについて、映画、演劇、舞踊などのアヴァンギャルドの人的ネットワークにおける位置づけ、舞踊の動きの人形アニメーションへの取入れ、及び人形劇家としての活動を論じた。海老根剛氏は、「モダニズム芸術の人形論と人形浄瑠璃」において、歴史的アヴァンギャルドの人形論や人形表象と人形浄瑠璃の「カラダを持たない」人形の表現とのずれ、日本の新興人形劇と人形浄瑠璃との関係、及び「語り物」である人形浄瑠璃における人形の「動き」の特質について論じた。

その後、討論に移り、まずコメンテーターの唐津氏から、最近の公演に基づいて、現代のオペラやコンテンポラリーダンスでの人形的身体の表現の例が紹介された。司会の香川氏は、歴史的アヴァンギャルドにおける人形(ひとがた)の変遷について見取り図を示した。フロアからは、1920年代のドイツにおける人形の社会的位置づけ、エクステルとソニア・ドローネーの関係、キネティズムにおける動きの表現の具体例およびバウハウスとの相違、ライニガーにおけるダンスの動きの引用例の分析、20世紀初頭の海外における人形浄瑠璃への評価や現代における人形浄瑠璃の再発見の理由、クレイグ研究の現在、現代の人型アンドロイドやアヴァターをどう考えるか、などの質問が続き、非常に活発な討論が行われた。

2024年3月9日(土)には、愛知県芸術劇場と協同で、再びシンポジウム『踊る文字-アヴァンギャルドが見た文字と身体』(仮題)を開催予定である。以下のホームページも参照頂ければ幸いである。

「歴史的アヴァンギャルドの作品と芸術実践におけるジェンダーをめぐる言説と表象の研究」
http://www.tufs.ac.jp/ag/

(山口庸子)

547d9006866197e9f45995a4fb7a316aac602e9b.jpg

広報委員長:増田展大
広報委員:居村匠、岡本佳子、髙山花子、角尾宣信、福田安佐子、堀切克洋
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2023年10月17日 発行