翻訳

ボリス・グロイス(著) 河村彩(訳)

ケアの哲学

人文書院
2023年6月
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本書は、プラトン、ヘーゲル、ニーチェ、コジェーヴ、ハイデガー、アレント、フョードロフらの思想を取り上げ、それらをケアの哲学として読み替える。美術批評家である著者はこれまで、あらゆる事物は年月の経過とともに滅びるにもかかわらず、美術館に収蔵された作品は保存や修復といったさまざまな「ケア」を受け、永遠の命を与えられることを指摘してきたが、この問題の延長上に人間のケアとセルフケアを考察する。

本書では、人間は物理的な身体の他に、健康診断の結果やID、SNSのアカウントといった、本人についてのデータの集合体としての「象徴的身体」を持つという独特な発想が提示される。象徴的身体は、本人にとっては自分の物理的身体を知り、セルフイメージをデザインする手段でもあるが、他者によって書き換えられることもありうる。

そして国家はこの象徴的身体を通して個人を管理し、個人は自分の身体をよく知らないまま自己の生存への配慮(セルフケア)を行っているとグロイスは指摘する。本書では国家による生政治としてのケアから逸脱し、それに抵抗するものとしてセルフケアが捉えられる。近年福祉やフェニズムの分野で盛んに論じられている既存のケア論とは一線を画す本書は、ケアの概念を捉え直すことで、ビッグデータ時代の新たな自己を提示する。

(河村彩)

広報委員長:増田展大
広報委員:居村匠、岡本佳子、髙山花子、角尾宣信、福田安佐子、堀切克洋
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2023年10月17日 発行