編著/共著

戦後映像芸術アーカイブ(編)、ネトルトン・タロウ、足立元、佐々木友輔、川崎弘二、古畑百合子、西村智弘、阪本裕文(分担執筆)

新説 松本俊夫論

戦後映像芸術アーカイブ
2023年5月
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松本俊夫(1932–2017)は、戦後日本の映画運動を牽引した映画監督・映像作家である。1950年代の前衛的な記録映画にはじまり、1960年代末からは実験映画・ビデオアートや商業劇映画を監督するなど越境的な創作活動を展開した。また理論家としても『映像の発見』(三一書房、1963)などの著作があり、それらは当時の映画言説に大きな影響を与えた。映画の文脈では『薔薇の葬列』(1969)や、数々の実験映画によって松本の存在は国内外で広く知られていたが、2010年代より美術の文脈でも実験映画・ビデオアートを中心に再評価が進められ、「Tokyo 1955–1970: A New Avant-Garde」(ニューヨーク近代美術館、2012)をはじめとする展覧会にて、その仕事は頻繁に取り上げられている。

本書は、映画・美術・音楽など、幅広い専門分野を持つ論者たちによる、松本についての論文集であり、第一部「劇映画」、第二部「記録映画・実験映画」、第三部「インタビュー」、付録「松本俊夫全作品目録」によって構成されている。第3部のインタビュイーは、松本作品の映画音楽を数多く手がけた湯浅譲二(作曲家)と一柳慧(作曲家・ピアニスト)であり、それらは協働者の立場から見た松本俊夫論といえるものになっている。また「松本俊夫全作品目録」は60頁以上に及ぶボリュームで、現在判明しうる限りの全作品の詳細なデータと解説を掲載している。各論考タイトルとインタビューの詳細は下記のとおり。

Ⅰ 劇映画
ネトルトン・タロウ「場としての新宿──『薔薇の葬列』と『新宿泥棒日記』について」
足立元「昭和元禄映画破壊──松本俊夫における「日本的なもの」」
佐々木友輔「眼には見えない風景のために──『薔薇の葬列』論」

Ⅱ 実験映画・記録映画
川崎弘二「松本俊夫の実験映画と音楽──『銀輪』のミュジック・コンクレートを中心に」
古畑百合子「エクスパンデッド・シネマの実験と冷戦──松本俊夫とスタン・ヴァンダービークのコミュニケーション観」
西村智弘「松本俊夫のポストモダン──一九八〇年代以降の実験映像と劇映画」
阪本裕文「前衛記録映画論とその行方」

Ⅲ インタビュー
湯浅譲二インタビュー──2016年6月1日、於アップリンク渋谷 聞き手:川崎弘二
一柳慧インタビュー──2014年9月1日、於渋谷東武ホテル 聞き手:阪本裕文、江口浩、川崎弘二

まず第一部、ネトルトンの論文は、オックスフォード大学出版局のScreen (vol.55:1, 2014) に掲載された論文の著者自身による邦訳であり、『薔薇の葬列』と大島渚『新宿泥棒日記』(1969)の比較によって、両作のポリティクスの差異を検討する。足立の論文は、1960年代に用いられた「昭和元禄」という時代俗称を手掛かりとして、『西陣』(1961)と『修羅』(1971)において、なぜ先端性と「日本的なもの」が共振し得たのかを考察する。佐々木の論文は、『薔薇の葬列』を風景論的に読み解くというもので、そこでは足立正生らの『略称・連続射殺魔』(1969/1975)が参照される。

続く第二部、川崎の論文は、『銀輪』(1956)における武満徹のミュジック・コンクレートの創意をスペクトログラム解析によって明らかにするという実証的なもので、さらには、その後の松本作品の映画音楽についても概説される。古畑の論文は、エクスパンデッドシネマに取り組んでいた時期の松本と、アメリカの実験映画作家スタン・ヴァンダービークのコミュニケーション概念を比較することで、松本のテクノロジーに対する批判的態度を明らかにする。西村の論文は、1980年代以降の松本作品を中心に劇映画と実験映画の一体化を論じるものであり、遺作となった『蟷螂の斧』(2009–2012)もその射程に含んでいる。阪本の論文は、1950年代に花田清輝の影響下で前衛記録映画論を提唱した松本が、その後どのように思想を変化させていったかを論じるものであり、記録映画作家協会や映像芸術の会、そして松本・大島の一連の論争などが取り上げられる。

今後もNPO法人戦後映像芸術アーカイブでは『松本俊夫著作集成』(森話社、2016–)の続刊出版などを計画しているので、ご期待いただきたい。

(阪本裕文)

広報委員長:増田展大
広報委員:居村匠、岡本佳子、髙山花子、角尾宣信、福田安佐子、堀切克洋
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2023年10月17日 発行