編著/共著

難波功士、野上元、周東美材(編)、北村匡平、ほか(分担執筆)

吉見俊哉論 社会学とメディア論の可能性

人文書院
2023年5月
複数名による共(編/訳)著の場合、会員の方のお名前にアイコン()を表示しています。人数が多い場合には会員の方のお名前のみ記し、「(ほか)」と示します。ご了承ください。

本書は日本を代表する社会学者・メディア論者である吉見俊哉の東京大学退職を記念して弟子たちによって編まれた論集である。彼の研究室には日本のみならず多くの国から学生が集い、「吉見俊哉」を強烈に体験した。吉見俊哉とは何者であり、吉見社会学とはどのような学問なのか──。このアンソロジーは、吉見俊哉に直接指導を受けた弟子たちが、恩師のテクストと対話をし、そのエッセンスに多角的に迫ろうとする試みだ。ユニークなのは、単に「吉見俊哉論」を寄せ集めた論集ではなく、第1部、第2部、コラムと位相の異なる論考から構成されている点だろう(末尾には「吉見俊哉ブックガイド」も付いている)。

コラムは吉見のシンポジウムでの様子や弟子とのやり取り、吉見ゼミ恒例の夏の「合宿」の経験、名物講義「吉見俊哉を叩きのめせ!」における熾烈な「指導」が綴られ、彼の人となりが浮かび上がり、第2部「吉見俊哉」からの展開・転回では、弟子たちがそれぞれに吉見から何を継承し、いかにして自らの研究を発展させていったかが論じられる。漫画から書物、ジャニーズからレンタルビデオ、PRから防災にいたるまで、吉見がいかに幅広い学問領域を横断しながら弟子を育てたかが見て取れる。第1部は学説史の形式をとって吉見俊哉の研究の理論や方法論を明らかにしようとする試みである。以下では、第1部からいくつか抜粋して紹介しよう。

野上元の「亡命先としてのメディア論──社会意識論・歴史社会学のゆくえ」では、見田宗介の社会意識論の可能性が、内田隆三の「書くこと」、佐藤健二の「読むこと」、吉見俊哉の「見ること」の歴史社会学にいかにして継承されたかが議論される。新倉貴仁の「まなざしと境界の社会学──吉見俊哉における消費社会の主題のゆくえ」では、異なる時期に書かれた三つのディズニーランド論を比較することで、初期の仕事における問いの中心であった消費社会という主題がいかにアメリカナイゼーションの主題へと推移したかが論じられる。金成玟の「吉見俊哉と東アジア──アクター・ネットワーク・レファレンス」では、韓国・台湾・中国に翻訳された吉見の仕事を通して、東アジアの文化研究に彼がいかに位置づけられ、どのような役割を担ってきたのかが論じられる。

こうして吉見俊哉に接した時期が異なる世代の論者たちが、客観的に吉見社会学を論じたり、あるいはごく私的に講義やゼミでの「吉見俊哉」を語ったりすることによって、留まることを知らず、動き続ける知性の内実が、立体的に浮かび上がってくるだろう。吉見俊哉が切り開いてきた社会学の革新性を紐解き、その魅力を解き明かし、彼の営みを歴史化すること。本書は唯一無二の社会学者のダイナミズムに満ちた軌跡であり、彼が育てた弟子たちの格闘・迷走の痕跡でもある。

(北村匡平)

広報委員長:増田展大
広報委員:居村匠、岡本佳子、髙山花子、角尾宣信、福田安佐子、堀切克洋
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2023年10月17日 発行