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多摩美術大学アートアーカイヴセンター創設記念シンポジウム 新たなるアートアーカイヴに向けて

報告:馬定延

主催:多摩美術大学アートアーカイヴセンター
日時:2019年3月29日(金)- 30日(土)13:00-17:00
会場:多摩美術大学八王子キャンパスレクチャーホールBホール

① 3月29日(金)
進行:安藤礼二(多摩美術大学)

【オープニング】アートアーカイヴセンター設立について
建畠晢(多摩美術大学)

【第1部】メディアアートと生成するアーカイヴ
渡邉朋也(山口情報芸術センター)
馬定延(明治大学)
久保田晃弘(多摩美術大学)

【第2部】多摩美ポスターアーカイヴについて
佐賀一郎(多摩美術大学)
山本政幸(岐阜大学)

② 3月30日(土)
進行:安藤礼二

【第3部】写真とアーカイヴ──安齊重男作品が開く地平へ
小泉俊己(多摩美術大学)
光田由里(DIC川村記念美術館)

【第4部】トークセッション 新たなるアートアーカイヴに向けて
司会:安藤礼二
建畠晢
港千尋(多摩美術大学)
加治屋健司(東京大学)
林道郎(上智大学)

【クロージング】全体統括と今後に向けて
久保田晃弘

お問い合わせ:aac@tamabi.ac.jp


2018年4月に設立された、多摩美術大学アートアーカイヴセンター設立を記念する本シンポジウムでは、「もの派/安齊重男の写真」、「ポスター/多摩美ポスターアーカイヴ」、「メディアアート/三上晴子アーカイヴ」を出発点に、美術大学のアーカイヴに関する有意義な議論が行われた。

第1部は、山口情報芸術センター[YCAM]で行われた作品の再制作と修復のプロジェクトの紹介から始まった。今年1月に多摩美で開催された共同研究成果展で発表された三上晴子の《Eye-Tracking Informatics》(2011)の修復バージョンは、作品の外形の温存より体験の現在化に重点を置いた事例である。渡邉朋也は、このプロジェクトが作品を作品として成立させる要素とそれに対する作家の営みを探る取り組みであり、インスタレーションの空間を読み解き直す作業は美術全般に適用可能な考え方だと述べた。馬定延は、作品のコンセプトを裏付けて、批評の手がかりを提供する資料体として三上晴子アーカイヴを位置付け、設置に至るまでの経緯と共同研究の成果『SEIKO MIKAMI 三上晴子 記憶と記録』(渡邉との共編著書)を紹介した。久保田晃弘は、両者の事例報告を抽象化し、生成するアーカイヴ[Archives for Becoming]という概念を提案した。それは、作品概念を単体のオブジェクトからインタラクションの環境まで拡張させる、物質と情報のエコシステムである。

第2部の冒頭では、佐賀一郎が、竹尾ポスターコレクション(約3200点)、DNPポスターコレクション(約1800点)、グラフィックデザイナー・サイトウ・マコトコレクション(約200点)、グラフィックデザイナー・佐藤晃一コレクション(数百点規模)という多摩美ポスターアーカイヴを時系列に紹介した。佐賀の前任である山本政幸は、多摩美ポスターアーカイヴの竹尾ポスターコレクションの中、サイケデリック・ポスターに特定した研究を発表した。同時代、近隣地域の文化圏において、思想と音楽の視覚化という共通の使命のもと、相互にいかなる影響を与えていったかが具体的なポスターの読解を通じて提示された。山本の発表を受けて、佐賀は、本人の実装した竹尾ポスターコレクションのデータベースの試験版を試演し、およそ120年間にわたるポスター群を解体し、過去のものを使って現在を表現することで、デジタルアーカイヴに新しい価値付与できるのではないかと、創造的なアーカイヴの在り方を訴えた。

翌日の第3部の冒頭で小泉俊己は、2015年から2017年まで多摩美と埼玉県立近代美術館の共同事業として取り組んできたもの派のアーカイヴ事業と、その一環として行われた2016年のシンポジウム「もの派とアーカイヴ:海外への発信を目指して」の成果に触れた。多摩美で5回開催された安齊重男関連展と長年の交流について話した後、「安齊重男の写真による─多摩美をめぐる人々展」(2015)のなか、安齊の記録した菅木志雄の《無限状況》(1970)の制作過程を挙げて、もの派の作家と作品に関しては制作過程の記録がいかに重要な資料となるのかを例示した。光田由里は、「写真・アーカイヴ・安齊重男・作品」を軸に、李禹煥、中平卓馬、高松次郎、野村仁、田中信太郎などの事例を取り上げながら、学芸員の立場からそれぞれに対する、そしてそれぞれの組み合わせ方について講演を行った。光田が第1部の議論に対する応答として言及した『野島康三 作品と資料集』が示唆したのは、美術史のなかにアーティストを記録する作業が、時代や思潮を超えて互いに共鳴するという事実だった。

第4部に登壇した建畠晢は、光田の講演を受け、1次・2次資料と呼ばれる作品と記録は分野、立場、見方で入れ替わりえるものだとし、キュレーションとアーカイヴィングの不可分な関係性について話した。林道郎はニューヨーク近代美術館から刊行された『戦後日本美術批評のアンソロジー』の共同編集作業について説明し、アーカイヴにはメタ言説と自立性という考え方が重要だと強調した。京都市立芸術大学の芸術資源研究センターで行なった古橋悌二の《LOVERS─永遠の恋人たち─》の修復作業と日本美術オーラル・ヒルヒストリー・アーカイヴに関わってきた加治屋健司は、作品と資料の両方を収集できる美術大学のアーカイヴの重要性と新しいものを生み出す場としてのアーカイヴの可能性について話した。最後に港千尋は多摩美術大学情報デザイン学科の20年間の卒業制作を集めたアーカイヴを初披露し、そこに学生たちが自分の制作を歴史のなかにマッピングできるという教育的効果があるとした。両日の進行をつとめた安藤礼二は、鈴木大拙のアーカイヴに収蔵されている鈴木の妻、ビアトリス・レーンの資料を整理する形で行なった自身の研究に言及し、アーカイヴのなかには何を資料として選択するかの問題が介在している上で、そこから全く異なる知見と歴史が生まれる可能性があると述べた。最後の議論では、2日間のシンポジウムを振り返って、作品と資料体、公と個の問題、美術大学にとっての新しいアーカイヴの可能性、そしてそのための継続的な意見交換と協働の必要性を改めて確認する時間となった。

(馬定延)

Part1-3撮影:竹久直樹.jpg

第1部〜第3部 撮影:竹久直樹

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第4部 撮影:竹久直樹

広報委員長:香川檀
広報委員:白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2019年10月8日 発行