単著

石岡良治

現代アニメ「超」講義

PLANETS
2019年6月

誰もが「博覧強記」と称する著者による、「超」シリーズ3作目(共同討議方式の『オーバー・ザ・シネマ映画「超」討議』も含めれば4作目)。作家性の強い細田守や新海誠から、深夜アニメ、スタジオとしての個性を持つシャフトと京アニ、ロボットアニメ、そしてキッズアニメ(とりわけ女児向けのもの)に至るまでの「アニメのユニヴァース」が、「全てを見尽くす(そして語り尽くす)」勢いで論じられる。

本書の特徴を挙げれば、次のようなものになるであろう。まず「現代アニメ」の標題を裏切らず、21世紀(いわゆるゼロ年代以降)のアニメに的を絞って論じていること。作品分析や作家論もカヴァーしつつ、その個別性を超えて、「系譜」や「流れ」を取り出し、提示していること。さらには、アニメを「ハブ」として展開する、メディアミックス的な表現形態や市場(ゲーム、声優のファンダム、「ガンプラ」のようなホビー、玩具など)も射程に含めていること。ファンダム研究やオーディエンス研究、あるいは「オタク論」などとはまた異なるアプローチで、アニメとその周りに展開する文化の「消費」の側面を捉えていること。名作主義を排し、日本アニメ研究に支配的なジブリ中心主義から距離を置いていること(例えば序章では、ジブリ作品を「国民映画枠」と規定した上で、ポスト・ジブリとしての細田守のポテンシャルが検討される)。駄作は駄作と価値づけつつも、「評価に値しない作品は論じない」という排除は行なわないこと(ちなみに、予約版特典として付された小冊子「アニメの値打ち 21世紀アニメ100点×100作」には、著者の評価による最高95点から最低−95点までの作品が網羅されている)。このような性質は、とりもなおさず、従来のアニメ研究やアニメ批評にありがちだったパターンを、本書が思慮深く乗り越えていることの証左でもあるだろう。

本書では、作品の表現と受容の両面を論じるに際して、ジェンダー・イシューへの繊細な配慮がなされていることも、特筆しておきたい。フェミニズム論やジェンダー論のアプローチが用いられるわけではなく、ポリティカル・コレクトネスの観点から断罪するという立場も慎重に避けられているが、(昨今ではもっぱらSNSで展開される)諸々の議論も踏まえたうえで、注意深く思考されていることが分かる。

疾走感のある語り口と巧みな思考整理ゆえに、膨大な情報量を組み込んだ文章ながら、一気に読ませる一冊である。

(小澤京子)

広報委員長:香川檀
広報委員:白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2019年10月8日 発行