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国際シンポジウム 「美術と戦争:1940-50年代、日本・朝鮮・台湾」

報告:北原恵
  • 日時:2016年7月23日 (土) 12:30から 18:00
  • 場所:大阪大学豊中キャンパス、待兼山会館会議室
  • 報告者:
    • 金容澈(高麗大学・グローバル日本研究院)
      「アジア太平洋戦争期植民地朝鮮の戦争画」
      コメンテーター:喜多恵美子(大谷大学)
    • 白適銘(国立台湾師範大学・美術学部)
      「日本統治下の台湾戦時美術──見えない戦争とその視覚化の問題を兼ねて」
      コメンテーター:ラワンチャイクン寿子(福岡アジア美術館)
    • 白凜(東京大学総合文化研究科)
      「戦後の在日朝鮮人美術史──グループの結成、展覧会の開催、画集の発行 まで」
      コメンテーター:平田由美(大阪大学文学研究科)
    • 鈴木勝雄(東京国立近代美術館)
      「戦争・美術・コメモレイション」
      コメンテーター:北原恵(大阪大学文学研究科)

今夏、大阪大学豊中キャンパスで、「美術と戦争:1940-50年代、日本・朝鮮・台湾」という国際シンポジウムを開催したので、その報告をしたい。目的は、アジア太平洋戦争期の戦争画について、「日本」国内だけでなく朝鮮半島と台湾の植民地下での制作状況を具体的に知り、これまでほとんど研究されてこなかった在日朝鮮人の美術活動を視野に入れることによって、「1940-50年代」と「戦争画」研究を再考することであった。

シンポジウムでは4人の報告者が、①アジア太平洋戦争期植民地朝鮮戦争画(金容澈:高麗大学グローバル日本研究院)、②日本統治下の台湾戦時美術(白適銘:国立台湾師範大学美術学部)、③戦後の在日朝鮮人美術史(白凛:東京大学総合文化研究科)、④戦争・美術・コメモレイション(鈴木勝雄:東京国立近代美術館)というタイトルで発表を行い、それぞれ、コメンテーターが応答した。(コメンテーターは、①喜多恵美子:大谷大学、②ラワンチャイクン寿子:福岡アジア美術館、③平田由美:大阪大学、④北原恵:大阪大学)

まず、戦時下の朝鮮・台湾での「戦争画」に焦点を絞った研究はほとんどなされてこなかったため、参加者にとっては初めて知ることが多く、日本一国主義的な研究を見直す画期になったことが成果として挙げられよう。興味深かったのは、1937-45年の美術を語るとき、日本で当たり前のように使用している「戦争画」という概念が、他の地域では通用しないということである。白適銘氏によると、台湾人の画家は戦場に従軍した経験がなかったにも関わらず、「見えない」戦争を視覚化しなければならなかったため精神論に傾きがちであったという。皇民化・同化のなかで画家たちはいかなる時局色を反映するか、美術の中に「国家」の概念をどのように表象するかという問題に直面し、「地方色(ローカルカラー)」から「時局色」の方向に変化したことが具体的な作品から見えてきた。

アジア太平洋戦争期の植民地朝鮮での戦争画については、山田新一の《朝鮮志願兵》1939年が日本でもよく知られているが、金容澈氏の発表では在朝の朝鮮人・日本人画家の描いた戦争画の紹介だけでなく、朝鮮人画家がその後のベトナム戦争においても同様の構図を用いて戦争画を国に献納するなどの事例が挙げられた。

さらに1945年から1960年代初期の在日朝鮮人美術について、グループの結成や展覧会の開催、画集の発行から具体的に検証した白凛氏の発表は、「在日朝鮮人美術史」という研究自体が、様式・時代区分・宗教・国名・地域名によって分類する既存の美術研究の枠組みから外れ、不可視化されてきたこと、それゆえ研究枠組みを根底から揺るがさざるを得えないことを明確にするものだった。

最近の「戦争画」研究や展覧会では、1940年代から50年代の連続性を考えるものが主流となっているが、依然として様式面への注目にとどまっているものが多いように思われる。鈴木勝雄氏の発表は、「アジア・太平洋戦争の集合的な記憶の形成に「美術」という制度がどのように関与したのか」という問題設定を、1970年の戦争記録画返還(永久貸与以前に起こった「戦争画リバイバル」という現象に焦点を当て検証するものであり、今後の戦争画研究の可能性を拓くものだった。これらの8人の発表・コメントによって、今後の課題も見えてきたように思う。本シンポジウムは、2015年韓国・高麗大学で開催された国際シンポジウム「ビジュアルのなかのアジア太平洋戦争」で生まれた国際ネットワークを持続するため、「アジア太平洋地域戦争ビジュアルフォーラム」の第一回目として企画されたが、今後も継続的に国際シンポジウムを開催し、共同研究を続ける予定である。

北原恵

広報委員長:横山太郎
広報委員:江口正登、柿並良佑、利根川由奈、増田展大
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2017年3月29日 発行