編著/共著

河野真太郎、日本ヴァージニア・ウルフ協会、ほか(編著)

終わらないフェミニズム 「働く」女たちの言葉と欲望

研究社
2016年8月
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日本政府は現在、「女性の活躍」をスローガンのひとつとしている。その一方で、2016年10月26日に世界経済フォーラムが発表した、男女格差の報告書において、日本は世界144カ国中111位となった。前年は101位であったから、政策にもかかわらず大きく順位を落としたことになる。

この順位の要因となったのは、経済・政治の分野において、官民の高位職や国会議員の女性比率が低いことであった。いわゆる「ガラスの天井」である(日本の場合はガラスではなく目に見える天井かもしれないが)。

では、高位職や議員の女性比率を改善することがまずは必要ということになるだろうか。もちろん、絶対的に必要である。だがその一方で、それをもってフェミニズムの目的は達成されると考えてよいのか。否である。政府の言う「女性の活躍」が女性の労働資源としての「活用」(この表現は批判を受けて取り下げられた)だとするなら、フェミニズムは、労働の問題を今こそ考えなければならない。とりわけ新自由主義的・ポストフォーディズム的な体制下における女性(的)労働を。本書はそのような体制に「ポストフェミニズム」の名を与え、それを乗り越える方策を探究する。

しかし、本書は現在の状況を直接に分析するものではない。本書はあくまで、『私ひとりの部屋』や『三ギニー』といったエッセイでフェミニストとしても著名であるイギリスのモダニズム作家ヴァージニア・ウルフの研究者たちが、そのウルフの作品を中心とする、20世紀における「ポストフェミニズムの系譜」(そしてその系譜の外部)の文学・文化を論ずる論集である。言い方を変えれば、ポストフェミニズムの現在を乗り越えんがために、本書はその現在の系譜をイギリス文学・文化のうちに求める。そのようなわけで、ヴァージニア・ウルフとその同時代作家たちを論ずるにあたっても、その消費文化との関係はポストフェミニズム的な主体形成という観点で論じられるし(第一部)、またケア労働/情動労働/家事労働といった、これまでモダニズム文学を論ずるにあたっては不在であった論点が導入される(第二部)。さらに本書は、最初の二部で新たに見いだされた文化の系譜を、現代の、チック・リットや自伝文学、そして映画といった文化へと接続し(第三部)、さらにはフェミニズムのアイデアそのものがいかなる文化移動をしてきたかという観点も導入する(第四部)。

最終的に、フェミニズムと女性の問題とは階級と連帯(もしくは分断)の問題である。現代のフェミニズムの状況を20世紀イギリスの文化と接続する本書の試みが、この最終問題にどこまで到達できているかは、編者である本紹介文著者には判断できないが、本書がイギリス文学研究だけでなく、広くフェミニズム研究とそれをめぐる文化一般の研究に一石を投じられることを願っている。

(河野真太郎)

広報委員長:横山太郎
広報委員:江口正登、柿並良佑、利根川由奈、増田展大
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2017年3月29日 発行