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シンポジウム もしもシュルレアリスムが美術だとしたら?

報告:長尾天

日時:2017年12月16日(土)
会場:早稲田大学戸山キャンパス 36号館682教室

午前の部
①10:00〜10:30 長尾天(日本学術振興会特別研究員)
「もしもシュルレアリスムが美術だとしたら?」
②10:30〜11:00 松井裕美(名古屋大学高等研究院(人文学研究科)特任助教)
「現実と超現実をつなぐ橋:ピカソの作品における梯子の表象」
③11:10〜11:40 吹田映子(日本大学講師)
「ルネ・マグリットにおける具象と抽象のあわい:1920年代の「初期」作品を中心に」
④11:40〜12:10 利根川由奈(早稲田大学講師)
「「現実の解放」としてのシュルレアリスム:ルネ・マグリットの壁画と壁紙」

午後の部
⑤13:30〜14:00 石井祐子(九州大学准教授)
「シュルレアリスム美術における展覧会の機能」
⑥14:00〜14:30 木水千里(成城大学講師)
「マン・レイの数学的オブジェ」
⑦14:40〜15:10 長名大地(一橋大学大学院)
「アメリカ亡命期のシュルレアリスム:マックス・エルンストを中心に」
⑧15:10〜15:40 岸みづき(早稲田大学講師)
「層状の絵画:1940年代前半のシュルレアリスムと抽象表現主義」
⑨15:50〜16:20 小山祐美子(国立新美術館)
「シュルレアリスム的表現の拡張:サルバドール・ダリを中心に」
⑩16:20〜16:50 鈴木雅雄(早稲田大学教授)
「べべ・カドムの侵略」

全体討議
17:00〜17:30
司会:松岡佳世(ベルナール・ビュフェ美術館)

主催:早稲田大学総合人文科学研究センター研究部門「イメージ文化史」
企画:シュルレアリスム美術を考える会


2017年12月16日、早稲田大学戸山キャンパスにおいてシンポジウム「もしもシュルレアリスムが美術だとしたら?」が開催された。日本におけるシュルレアリスム研究は主に文学研究者によってなされてきており、美術史という領域においてシュルレアリスムに取り組んでいる研究者は決して多くはない。そうした美術史研究者が集まり、「シュルレアリスム美術を考える会」として企画されたのがこのシンポジウムである。シュルレアリスムは美術の問題でありうるのか、ないのか、このような二者択一的な問いを一旦括弧に入れ、敢えて「もしも~だとしたら?」と仮定法で問うことによって、美術史研究の側からシュルレアリスムに対する様々なアプローチを例示することが一つの意図としてあった。さらに言えば、仮定法による問いがはらむ曖昧さ、不確定性はシュルレアリスムにふさわしいものに思われた。美術史が設定する「実証性」の枠組みからはこぼれ落ちてしまう何かがシュルレアリスムには含まれているからである。

ベルメール研究者である松岡佳世氏の司会進行のもと、午前の部ではまず長尾が、美術史においてシュルレアリスムを扱うことの問題を概括した上で、これをデ・キリコ経由の「神の死」という観点から捉え直すことを提起した。次にピカソ研究者の松井氏が、梯子のイメージを鍵としてピカソとシュルレアリスムの関係を考察した。続いてマグリット研究者の吹田氏と利根川氏が、それぞれの観点からマグリットについてのアプローチを示した。午後の部ではまずエルンスト研究者の石井氏が、シュルレアリスム美術における展覧会の機能を論じ、次にマン・レイ研究者の木水氏がマン・レイの「数学的オブジェ」について考察を行った。続いてエルンスト研究者の長名氏、ポロック研究者の岸氏が、それぞれの立場から亡命期のシュルレアリスムとアメリカ美術との関係を捉え直した。そして、マン・レイ研究者の小山氏がダリを軸にシュルレアリスムとファッションの関係について考察を行った後、日本においてシュルレアリスム研究を牽引してきた鈴木氏が、マンガ論などを援用しつつポスターのイメージの文脈からシュルレアリスムを考え直す観点を提示した。

当日のプログラムは、期せずして、それぞれの発表が対をなす構成となり、結果、個々のアプローチの重なりと差異を同時に際立たせることになった。たとえば長尾と松井氏は、ともにデ・キリコとピカソというシュルレアリスムの「先駆者」を軸とする一方、方法論的には仮説的観点の提示とモチーフ分析という対照的なものとなった。また上記したように、午前の部では吹田氏と利根川氏、午後の部では長名氏と岸氏が同じ対象やテーマを別々の視点から扱った。さらに小山氏と鈴木氏のテーマは、ファッションやポスターという大衆的なイメージである点で重なり合っており、石井氏と木水氏の発表は「展示」という点でリンクする(木水氏の扱った「数学的オブジェ」の発端はポワンカレ研究所にあった数式に基づく立体の展示だった)。結果として、こうした構成もまた複数性を特徴とするシュルレアリスムについて論じるにはふさわしいものであったかもしれない。

当日は予想を上回る数の聴講者が訪れ、全体討議も充実したものとなった。今回のシンポジウムは個々のアプローチの例示という形式をとったが、研究会としては、今後より具体的なテーマに即した企画も行っていきたいと考えている。本シンポジウムの詳しい概要は別の場所で発表される予定である。

広報委員長:横山太郎
広報委員:柿並良佑、白井史人、利根川由奈、原瑠璃彦、増田展大
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2018年6月22日 発行