第16回研究発表集会報告

ワークショップ3 いかに「準備」しないか 即興演劇の上演形式「The Bechdel Test」における関係性の「発見」

報告:直井玲子・園部友里恵

日時:2022年11月12日(土)13:30 - 15:30

発表者:
直井玲子(東京学芸大学)
園部友里恵(三重大学)


私たちは、即興演劇におけるジェンダーバイアスの問題を扱う先進的実践として、米国で開発された上演形式「The Bechdel Test」(以下「BT」と略記)を日本で継続的に実践・研究している。「表象文化論学会 第15回研究発表集会」(2021)では、BTにおいて主人公像を決定するのは誰かという点に着目し、主人公役の女性が自ら「決めた」と思えるようにするための工夫について、実際に体験しながら検討するワークショップを実施した。

即興演劇において、演者たちは、無意識のうちに様々な「準備」をしてしまう。BTにおいても脇役の演者が事前に「準備」した関係性を主人公役の女性演者にしかけることにより、主人公役は脇役からコントロールされているように見えてしまう場合がある。本ワークショップでは、こうした状態を乗り越えるための手がかりとして「discover」(役同士の関係性をその場でともに発見すること)に着目していた。

今回のワークショップに参加してくれたほとんどの方が即興演劇のワークショップそのものが初めてだったので、参加者に過剰な負担をかけないよう心掛け、BTの専門的な内容に入る前に、即興演劇の成り立ちや基礎的なことを丁寧に説明した。そして「即興演劇のゲーム」を通して、即興演劇を実際に体験してもらった。

当日のワークショップの内容は以下の通りである。

<自己紹介>1人ずつの自己紹介の冒頭に「知ってる人は知ってるんだけど・・・」と言ってから話を始めるという、BTを開発した米国のリサ・ローランドのワークショップにおける自己紹介ゲームを取りあげた。

<2つの点>ホワイトボードにまず2つの点を描く。これを目にして、2人の参加者が交互に少しずつ線を描き何者かを描いていく。自分が予想していた絵にならないこともあるが、相手の描いた線を否定することなく自分もそこにまた線を足して描いていく。最後に名前も一文字ずつ書いて決める。

<ワンワード>参加者全員で一言ずつ喋って物語を紡いでいく。他者と一緒に物語を作ることを学んでいく「ゲーム」である。

<モノローグ体験>BTでは2人~3人の女性主人公が冒頭と最後にモノローグ(独白)を即興でする。今回のワークショップでは男女を問わず全員がモノローグを体験した。

<ペインター>モノローグをする演者にはペインターと呼ばれる演者がモノローグの中盤で横につく。ペインターは客と一緒に主人公のキャラクターをつくって(ペイントして)いく。例えば主人公に「名前」をつけたり、主人公が壁に貼っているポスターを決めたり、冷蔵庫に入っているものを決めていく。主人公役の演者はそれらからインスパイアされて即興のモノローグを行った。

<スナップショット>BTの中核をなすのが「スナップショット」と呼ばれる短いシーンの連なりである。スナップショットの目的は、主人公の日常における多面的で複雑な姿を描き出すことであり、主人公の人生の様々な場面や表情を、写真を撮るかのように断片的に描いていくというものである。今回のワークショップでは、ある人のモノローグを聴いたのちに「その人について知っている情報」を皆で話をして、この主人公の様々な表情を見ていくには、相手役である自分がどんな役になって即興演劇の演者として入っていくことができそうかを提案してもらった。

今回のワークショップでは、BTの概要、およびスナップショットで起こりがちな問題について説明し、いかに「準備」せずに共演者との未知の関係性のなかに身を置けるかということについて、即興演劇のアクティビティを通して考えていった。そのためにもワークショップ当日に行うアクティビティについても「準備」をせず、参加者の人数や様子をみながら、即興的に決めていこうと決めていた。このことをも含め、参加者からの活発な質問やご意見をいただくことができ、皆で様々な議論を深めていくことができた。参加してくださった皆様に心から御礼申し上げます。ありがとうございました。


ワークショップ概要

私たちは、即興演劇におけるジェンダーバイアスの問題を扱う先進的実践として、米国で開発された上演形式「The Bechdel Test」(以下「BT」と略記)を日本で継続的に実践・研究している。「表象文化論学会 第15回研究発表集会」(2021)では、BTにおいて主人公像を決定するのは誰かという点に着目し、主人公役の女性が自ら「決めた」と思えるようにするための工夫について、実際に体験しながら検討するワークショップを実施した。今回取り上げるのは、BTの中核をなす「スナップショット」と呼ばれる短いシーンの連なりである。スナップショットの目的は、主人公の日常における多面的で複雑な姿を描き出すことであり、主人公の人生の様々な場面や表情を、写真を撮るかのように断片的に描いていくというものである。

即興演劇において、演者たちは、無意識のうちに様々な「準備」をしてしまう。BTのスナップショットでは、脇役の演者が事前に「準備」した関係性を主人公役の女性演者にしかけることにより、主人公役は脇役からコントロールされているように見えてしまう場合がある。本ワークショップでは、こうした状態を乗り越えるための手がかりとして「discover」(役同士の関係性をその場でともに発見すること)に着目する。 

ワークショップ前半では、私たちの過去の実践映像をもとに、BTの概要、およびスナップショットで起こりがちな問題について説明する。後半では、いかに「準備」せずに共演者との未知の関係性のなかに身を置けるかということについて、即興演劇のアクティビティを通して考えていく。なお、当日行うアクティビティについても「準備」をせず、参加者の人数や様子をみながら、即興的に決めていく。その際、参加者に過剰な負担をかけないような進行を心がける。以上を通して、スナップショットにおける主人公役の女性とそれに対峙する共演者のシーン構築のあり方について検討する。

広報委員長:増田展大
広報委員:岡本佳子、髙山花子、福田安佐子、堀切克洋、角尾宣信、居村匠
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2023年2月22日 発行