トピックス

シンポジウム 勅使河原蒼風の時代──近現代美術の保存・修復・再制作をめぐって

報告:田口かおり

シンポジウム写真.JPG

日時:2018年11月18日(日)14:30-17:30
場所:東海大学 湘南校舎 19 号館 2 階オープンマルチアトリエ

プログラム:
開会挨拶 田口かおり
14:30〜15:10 加藤瑞穂 (大阪大学総合学術博物館)「具体美術協会の再制作作品」
15:10〜15:50 アン・アン・ダイアナ・テイ (メルボルン大学)「支配的言説をこえて──シンガポールの油彩絵画(1940-60 年代)保存のための意思決定をめぐるエコシステム」
15:50〜16:10 休憩20分
16:10〜16:50 田口かおり (東海大学)「勅使河原蒼風《樹獣》の調査と保存修復」
16:50〜17:30 アントニオ・ラーヴァ (ラーヴァ保存修復協会・ヴェナリア国立中央修復研究所)「勅使河原蒼風と同時代の作家たちの作品保存と修復──イタリアのケース・スタディ」
17:30〜17:40 閉会挨拶
17:50 〜意見交換会

主催:東海大学創造科学技術研究機構


2018年11月18日(日)、東海大学にて開催された国際シンポジウム「勅使河原蒼風の時代──近現代美術の保存・修復・再制作をめぐって」は、勅使河原蒼風及び同時代の国内外の近現代美術について、美術史・保存修復学・博物館学などの観点から多角的な考察を試みるものであった。シンポジウムでは、国内外の美術館に収蔵されているいわゆる「前衛芸術作品」、とりわけ1940-1960年代に活動した作家たちの作品について研究を行う者が集い、当時の作家たちが何を実践しようと試みていたのかを精査しつつ、作品を将来的にいかに保存・収蔵していくべきか、様々な文脈から検証が行われた。

一人目の登壇者の加藤瑞穂氏 (大阪大学総合学術博物館) は「具体美術協会の再制作作品」 と題した講演の中で、具体美術協会の作品群について、野外や舞台で発表されたごく一部の例外を除けばそのほとんどが現存していない状況を報告した。分析の中では、作品制作時から長い時間を経た後に行われる作品の再制作の場で、作家自身もしくは展覧会の監修者らが行う「改変」の諸相がいかなるヴァリエーションを持ちうるかを、主に田中敦子の作品の再制作を軸に議論が繰り広げられた。

二人目の登壇者であるアン・アン・ダイアナ・テイ氏(メルボルン大学)の講演「支配的言説をこえて──シンガポールの油彩絵画(1940-60年代)保存のための意思決定をめぐるエコシステム」では、1940年代から60年代までのシンガポール絵画の保存・修復の現場からの声が届けられた。実験的に制作された西洋の絵画技法と、ある限定された地域の伝統工芸を融合させることによって生まれた「前衛的な」芸術作品について、果たして西洋で成熟してきた近代保存修復の方法論を応用することが適当であるのか否か、批判的な分析が行われた。

三人目の登壇者であるアントニオ・ラーヴァ氏(ヴェナリア国立中央修復研究所)は、自身が実施した勅使河原蒼風作品の修復事例の報告を軸に、いわゆる「エフェメラルな」素材によって構成された作品や、経年変化が著しい近代美術の作品群について、どのような介入の方法が選択されるべきなのかを議論を展開した。

ラーヴァ氏の議論を受ける形で、司会を務めた田口かおり(東海大学)は、2018年夏に実施された勅使河原蒼風《樹獣》(草月会館/東京都現代美術館寄託)の調査と保存修復の第一段階の成果を報告した。《樹獣》は、度重なる改変や素材の変質により所々大きく変形し、素材である木材の表皮を覆っている真鍮部分に変形や亀裂、金属の剥離が散見される。講演は、これら保存上の様々な問題が現在進行形で発生している本作品について、制作時から現代に至るまでのタイムラインを改めて再構成する試みでもあった。

ディスカッションの場では、登壇者が提供した多様なケーススタディの報告を踏まえた上で、多様な国内外の展示空間において現代美術を展示、保存、修復する際に解決すべき課題とその解決法について与えうる示唆について、技法と理論の双方から検討が試みられた。

(田口かおり)

広報委員長:香川檀
広報委員:利根川由奈、白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2019年6月14日 発行