トピックス

ワークショップ マンガの体験、メディアの体験 第1回 マンガとスクリーン

報告:中田健太郎

主催:早稲田大学総合人文科学研究センター研究部門「イメージ文化史」
2018年度 ワークショップ「マンガの体験、メディアの体験」第1回「マンガとスクリーン」

日時:2018年10月26日(金)17:00~19:30
場所:早稲田大学戸山キャンパス36号館6階682教室

発表者:
中田健太郎(日本大学他非常勤講師)「マンガのなかのスクリーン、スクリーンのなかのマンガ」
ドミニク・チェン(早稲田大学准教授)「マンガと読者の相互行為(インタラクション)を考える」


2018年10月より、「マンガの体験、メディアの体験」と題する連続ワークショップが、早稲田大学の研究部門「イメージ文化史」の主催で開かれている。鈴木雅雄教授(早稲田大学)を中心としている、また私自身も企画に参加しているこのワークショップは、2013年度および2014-2015年度に、やはりマンガを主題として行われてきた二度のワークショップの、いわば続篇にあたるものだ。

過去二回のワークショップの成果は、それぞれ『マンガを「見る」という体験』(水声社、2014年)と『マンガ視覚文化論』(水声社、2017年)にまとめられてきた。それらの著作では、マンガ研究と美学的研究の接点においてマンガを絵画のように「見る」ことや、視覚文化論を参照しつつマンガというメディアの近代性を検討することなどが試みられた。「マンガの体験、メディアの体験」という標題のもとはじめられた今回のワークショップは、過去二回の共同研究の成果にもとづきつつ、とりわけメディア論の知見を頼りに、マンガをそれ以外のメディアと対比させながらその特性について考察することを目指している。

IMG_9384?? リミング済).JPG

(撮影者:林北斗)

そのような次第で、マンガとはどのようなメディアなのか、という問題については、考えをまとめる機会を幾度かいただいてきた。それにもかかわらず、いままさに生じているマンガのメディア的条件の変化について、つまりマンガがますますスクリーン上で読まれるものになっているという問題について、考えをすすめられずにきたことには、内心忸怩たる思いがあった。「マンガの体験、メディアの体験」の第一回として、「マンガとスクリーン」と題するワークショップを、ドミニク・チェン准教授(早稲田大学)と私を発表者として開催することができたのは、したがってまずは自分自身にとって、たいへんありがたかった。

ごく簡単に振りかえっておくなら、私の発表では、マンガのメディア的条件の変化を念頭におきながら、スクリーン上におけるマンガがどのようなメディアとなっているのか、飯田一史やマガリ・ブディッサらの先行の議論を紹介しつつ概観した。そのうえで、紙媒体のマンガにおいて生じると(とりわけ伊藤剛によって)議論されてきた、紙面とコマのあいだでのフレームの作用が、スクリーン上のマンガにおいては単調になるのではないかという懸念をとりあげ、これまでのマンガ表現論の議論を念頭におきながら応答を試みた。具体的には、マンガというメディアのしめしてきたフレームの多様性を想起しつつ、スクリーン上のマンガにおけるフレームの可能性についてあらためて語ろうとしたつもりである。

ドミニク・チェン准教授の豊かな発表内容を、私の記憶を頼りに要約するのは荷が重いようだ。「イメージ文化史」のサイト(https://www.waseda.jp/flas/rilas/other/2018/04/01/4769/)上の「研究報告」の項目では、当日の二つの発表内容について林北斗氏による詳細な報告がなされているので、そちらを参照していただくことをお薦めしたい。とはいえ、情報アーキテクチャにもとづく芸術表現にたいするチェン氏の知識と経験から、今後のスクリーン上でのマンガのあり方についてしめしていただいた、貴重な機会であったのを思いだす。とりわけ、マンガ読者の視線を観測・記録するデバイスや、AIの創作への関与などについて、具体的な事例とともにとりあげられて、マンガがますます情報システムのもとで生成・管理されていく可能性について語られていたのは忘れがたい。そのような状況をただ追認するのではもちろんなく、マンガの「面白さ」の領域をどのように考えつづけることができるのか、表現をめぐる倫理という課題とともに示唆していただき、力づけられたように思う。

IMG_9391 (? リミング済).JPG

(撮影者:林北斗)

「マンガの体験、メディアの体験」の第二回目にあたる、「マンガと写真・映画」と題する会も、じつは先日(2018年12月1日)すでに開催されている。三輪健太朗氏と増田展大氏によって、写真・初期映画といったメディアとマンガを対比することの意味が検証され、有意義な議論が盛会の会場とも交わされた。

この連続ワークショップはさらに、2019年度の春学期と秋学期に、それぞれ二回ずつ開催される予定となっている。さらなる情報については、「早稲田大学総合人文科学研究センター」のサイト(https://www.waseda.jp/flas/rilas/)上のイベント情報などをご確認いただけたら幸いである。

(中田健太郎)

広報委員長:香川檀
広報委員:利根川由奈、白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2019年2月17日 発行