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関西大学東西学術研究所 第7回研究例会 講演 Russell Hughes

報告:三村尚彦

日時:2018年9月18日
会場:高千穂大学1号館2階1201教室

講演
・Russell Hughes(オーストラリア・クィーンズランド大学研究員、関西大学東西学術研究所訪問研究員)
タイトル:'Tractatus Coordinologico-Bioscleavus: The Human Use of Being Human'

・Adrienne Hart(Neon Dance Companyアートディレクター)
タイトル:Reversible Destiny Theatre

総合討論
通訳・進行 門林岳史(関西大学)、本間桃世(荒川+ギンズ東京事務所代表)

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2018年9月18日、高千穂大学にて、第7回関西大学東西学術研究所身体論研究班研究例会「パズル・クリーチャーとトランスヒューマン荒川+ギンズの人間観」が開催された。本研究班は、現代美術家の荒川修作、マドリン・ギンズが唱えた思想「建築する身体」「天命反転」を、学際的な視点から考察し、「22世紀へ向けての身体論」を提案することを目的として2016年に発足した。今回は2018年度第7回目(身体論研究班としては2回目)の研究例会である。登壇者は、オーストラリア・クィーンズランド大学研究員(2018年9月−12月東西学術研究所訪問研究員)のラッセル・ヒューズ氏と越後妻有アートトリエンナーレ2018の公演で来日中だったNeon Dance Companyアートディレクターのエイドリアン・ハート氏であった。

研究会タイトルにある「パズル・クリーチャーpuzzle creature」とは、荒川+ギンズの著書『建築する身体Architectural body』に出てくる語で、われわれ人類は自らにとってまったく不可解な存在であることを意味している。周知のように荒川+ギンズは、人は死ななくなるという「天命反転reversible destiny」思想を提唱した。われわれ人類は自分たちのことを少しもわかっていないにもかかわらず、人間は必然的に死に至る存在であると思い込み、そう信じて疑わないのは敗北主義者だと訴えつづけた。謎の存在たる人間を探究し、生きつづけようと強く望んだ者たちを荒川+ギンズはtranshumanと呼んでいた。

ヒューズ氏は、長らく荒川+ギンズ研究に取り組んできたが、近年は情報テクノロジーを利用する都市計画smart city構想のなかで、荒川+ギンズの思想がもつ可能性を考察している。AI(人工知能)によって住民の膨大な身体情報、行動情報などがビッグデータとして解析されることを通じて、人間を含めた都市全体を「永続的なoperating system」にしようとするsmart city構想に対して、われわれはどのように関わっていくべきかという問いを提示し、それを考えるための重要な認識論を提示しているのが、荒川+ギンズであるとヒューズ氏は主張した。というのも、荒川+ギンズの提唱した「建築する身体」とは、世界・環境・住空間の構築を通して人間存在を作りかえていく試みであったからである。

またハート氏は、2018年9月15、16日越後妻有「上郷クローブ座」で公開された舞台作品『パズル・クリーチャー』の制作者である。自身のダンスとの出会いから、荒川+ギンズにインスパイアされてこの作品を作るに至った経緯が語られた。ハート氏の作品が、一定の環境のなかで身体が創造的に何かしようともがきはじめるように促すことを目指し、観客が作品の一部となるような設定の提案であったことを、ビデオ映像や舞台で使用された小道具や手話などを通じて説明された。ネオンダンスカンパニーは、2019年にも来日し日本で公演を行う予定とのことである。

総合討論では、ヒューズ氏に対して、AIによるsmart cityのなかで生きる人間はより健康に、そして長寿になるといった楽観的な見通しにアート活動はいつも何らかの抵抗を示すものではないのか、といった指摘がされた。またハート氏には、現代のダンスパフォーマンスでは積極的にデジタルアートが取り入れられているが、そのような動向に関する質問がなされた。情報テクノロジーをはじめとする先端的な科学、たえずわれわれが直接感じとっている身体、そしてアート、これら3つがどのように関わり合うのかについて、フロアも交えて活発な意見交換がなされた。

(三村尚彦)

広報委員長:香川檀
広報委員:利根川由奈、白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2019年2月17日 発行