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公開研究会 King Arthur’s Afterlife: The Reception of the Arthurian Legend

報告:北村紗衣

日時:2018年6月9日(土)
場所:武蔵大学
主催:武蔵大学人文学会
協賛:歴史コミュニケーション研究会、国際アーサー王学会日本支部
組織者:北村紗衣(武蔵大学准教授)
登壇者:
 Geert van Iersel(Fontys University of Applied Sciences, senior lecturer)‘Arthurian Tax Reform and Other Tales: King Arthur in the Modern-Day Netherlands and Flanders’
 高木眞佐子(杏林大学教授)‘The Reception and Development of Malory Scholarship in Japan’
 伊藤盡(信州大学教授)‘Tolkien’s Fall of Arthur and the Alliterative Tradition Reconsidered’
 小宮真樹子(近畿大学准教授)‘Remembrance of Things Past: Dragon Quest 11 and Medievalism’
 久保豊(早稲田大学演劇博物館助教)‘Box Office Failure of King Arthur (2017): Is Arthurian Legend Unfitting to Contemporary Cinematic Universe?’
ラウンドテーブルセッション: ‘Game of Round Tables: The Return of the Arthurian Legend in Recent Films’
参加者
 Geert van Iersel (Fontys University of Applied Sciences)、久保豊(早稲田大学)、高木眞佐子(杏林大学教授)、伊藤盡(信州大学教授)、小宮真樹子(近畿大学准教授)、北村紗衣(武蔵大学)、岡本広毅(立命館大学)、畠山宗明(聖学院大学)他

アーサー王と円卓の騎士の伝説は世界中で人気を博しており、日本を含めた世界中で受容されている。研究や翻案も極めて多様化しており、現代の読者や視聴者は大胆な改変を伴った形でアーサー王伝説を受容していることも少なくない。6月9日に武蔵大学で開かれた研究集会‘King Arthur’s Afterlife: The Reception of the Arthurian Legend’ (アーサー王の死後の人生―アーサー王伝説の受容)は、アーサー王伝説が受容の過程でどのように変化したか、そして受け手である読者や視聴者の経験はそうした変遷からどのような影響を受けているかを考えることを目的とするものであった。

Geert van Iersel、小宮真樹子、久保豊の発表は主にポピュラーカルチャーにおける受容を、高木眞佐子と伊藤盡の発表は学術研究による受容を主題とするものであったが、この二つの主題はしばしば交錯し、厳密な学術的研究と、翻訳や自由な芸術的翻案を通した受容は決して対立するものではなく、深く結びついていることが全体から浮かび上がってきた。Geert van Ierselは中世から現在に至るオランダやフランドル地域のアーサー王コンテンツを分析する発表を行い、子供向けの作品などにおいて極めて多様な形でアーサー王伝説が受容されていることを示した。小宮真樹子の発表はゲーム『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』がアーサー王伝説の強い影響下にあることを指摘するものであった。久保豊の発表はガイ・リッチー監督による2017年の映画『キング・アーサー』が、近年ハリウッドで流行しているシネマティック・ユニヴァースの基盤としてフランチャイズを生みだすポテンシャルを持っていたにもかかわらず、商業的に大失敗した経緯を分析するものであった。高木眞佐子の発表はラフカディオ・ハーンをはじめとする所謂お雇い外国人の教育に始まる日本のアーサー王伝説受容を丹念に追ったものであり、一見非常に異なるように見える学術研究と自由な翻案をひとつのつながりとして考えようとする試みであった。伊藤盡の発表はJ・R・R・トールキンの未完の頭韻詩The Fall of Arthurを分析するものであったが、トールキンは『指輪物語』の著者であり、発表においても質疑応答においても、学術研究とポピュラーカルチャーの密接な繋がりを自然と感じさせられることとなった。

アーサー王伝説といえば円卓(ラウンドテーブル)の騎士がつきものであるため、最後にラウンドテーブルセッションが行われた。このセッションは2011年に放送が開始されたテレビシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』が中世ファンタジーの映像表現に大きな影響を与えていることをふまえて、近年の映画やテレビドラマについてディスカッションを行うものであった。当初はvan Iersel、久保、組織者の北村に岡本広毅と畠山宗明を加えたこじんまりとしたディスカッションを行う予定であったが、聴講者が比較的少なく、また質疑応答などが予想以上の盛り上がりを見せたため、全ての発表者と聴講者がラウンドテーブルについて、映像などを見ながら自由な議論を行うセッションに変更された。この議論においては、久保の発表で指摘されていたとおり興行的には成功しなかったガイ・リッチー監督の『キング・アーサー』に対する研究者やファンの反応は意外に好意的であり、大胆な変更を加えた翻案であっても専門家は大らかに受け入れている傾向があることがわかった。

本イベントは武蔵大学の協定校であるオランダのフォンティス応用科学大学より、アーサー王伝説の専門家であるGeert van Ierselが来日することが決まったため、日本とオランダのアーサー王伝説研究をつなぐ目的で開催されたものであった。さらに、普段はほとんど学会などでの交流を行う機会がないと考えられる中世ヨーロッパ文化の研究者と、映画など現代のコンテンツの研究者の両方を招き、異なる視点からアーサー王伝説という同じテーマに取り組むことで、学際的な知識交換を通して学者間のネットワークを作ることも目指した。結果的に質疑応答などが大変活発になってこの目的は確実に達成され、とくにこのような異分野間の学術交流を目指す場合、ラウンドテーブルセッションは非常に効果のある形式であることがわかった。

北村紗衣)

広報委員長:香川檀
広報委員:利根川由奈、増田展大、白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2018年10月16日 発行