翻訳

ジュリア・クリステヴァ(著) 栗脇永翔、中村彩(訳)

ボーヴォワール(叢書ウニベルシタス)

法政大学出版局
2018年5月
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本書はジュリア・クリステヴァによるボーヴォワール論集(Julia Kristeva, Beauvoir présente, Paris, Fayard, 2016)の翻訳である。ボーヴォワールの理論的および文学的著作の再読に割かれた5つの文章に続き、クリステヴァが創設に関わった「女性の自由のためのシモーヌ・ド・ボーヴォワール賞」に関する3つの文章、最後に2015年のシャルリ・エブド襲撃事件で命を落とした精神分析家エルザ・カヤトに捧げられた文章が収められている。クリステヴァによるボーヴォワールの著作の「分析」が展開される前半部に対し、ボーヴォワールの思想を継承しつつ同時代に応答する「知識人」としての身振りが垣間見える後半部、という具合にコントラストがつけられているようにも思う。「実存主義」対「ポストモダン」、「普遍主義」対「差異主義」など、思想史やフェミニズムの文脈で対比されることが多いふたりの女性思想家であるが、本書は両者の関係がそれほど単純なものではないことをうかがわせる一冊であろう。

原書が小著であることもあり、共訳者ともにその役割を大きくは超えない限りで資料的価値を高めるよう努めた。ボーヴォワール入門、さらにはクリステヴァ入門にも最適な一冊に仕上がっていると思うので、ひろくお手に取っていただければ幸いである。特にクリステヴァには『恐怖の権力』や『斬首の光景』など、今日の表象文化論につながる古典的著作も少なくない。再考が俟たれる思想家のひとりではないか。

(栗脇永翔)

広報委員長:香川檀
広報委員:利根川由奈、増田展大、白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2018年10月16日 発行