翻訳

ジェローム・K・ジェローム(著)、小山太一(訳)

ボートの三人男 もちろん犬も

光文社
2018年4月
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ジェローム・K・ジェローム (1859-1927) はイギリスの小説家・劇作家・ジャーナリスト。ユーモア小説の古典と呼ばれる『ボートの三人男』(1889) によって最もよく名を残しているが、劇作家としてロンドン劇壇空前のヒットを飛ばしたり、文芸誌の編集長として辣腕を振るったりと、ヴィクトリア朝後期~両大戦間期イギリスの文化史に無視しがたい足跡を残した。少年時代に両親を亡くして公的教育を断たれたあと、ドサ回りの劇団に身を投じて辛酸を嘗め尽くし、ホームレス同然の状態で舞い戻ったロンドンで下働きの事件記者として文筆の世界に入ったという叩き上げの人。

三人の若い紳士が手漕ぎボートでテムズ川をさかのぼる気儘な旅の途中で次々起こる珍事を余裕綽々の筆さばきで描く『ボートの三人男』はイギリス有閑階級の文化的産物と誤解されがちだが、実のところは、爆発的に増大しつつあった事務労働者層にアピールしつつイギリス帝国の文化のはしごをよじ登ろうとする試みに他ならなかったのである。

丸谷才一訳 (中公文庫) 以来の新訳となる光文社古典新訳文庫版では、そうした背景を持つ本書の文化的パフォーマティヴィティと重層的な笑いの精神が伝わる訳文を目指した。

(小山太一)

広報委員長:香川檀
広報委員:利根川由奈、増田展大、白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2018年10月16日 発行