編著/共著

是枝裕和、安藤紘平、岡室美奈子、谷昌親、土田環長谷正人、ほか(編)

映画の言葉を聞く 早稲田大学「マスターズ・オブ・シネマ」講義録

フィルムアート社
2018年3月
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かつては撮影所があった。映画を作りたければそのなかに潜り込めばいい、技術を修得したければ匠の後ろ姿から学べばいい、そのような環境が1970年代までは日本にも存在していた。撮影所という教育システムの崩壊以後、新入社員として研修を受けることを除けば、制度的な映画・映像の人材養成は専門学校や大学へと場所を変えたともいえよう。作品の創造プロセスを学ぶためには、「実践的」な技術や知識こそが役に立つという考え方は、大学においても評価される傾向にある。課題に応じた即戦力が求められているのだ。

本書は、早稲田大学の授業「マスターズ・オブ・シネマ」のなかから、2016年度、2017年度に行われた講義に、過去の講義二回分を加えて採録したものである。「マスターズ・オブ・シネマ」は、早稲田大学の全学部を対象とした正規の授業で、現在は6人の教員が持ち回りで担当している。映画・テレビドラマ・アニメーションなどの映像分野を支え、活躍するゲスト・スピーカーを迎えて、インタヴュー形式で授業は進行する。

一見すれば、前述したように、「現場」の知を大学のなかに導入する試みと言えなくはない。しかし、編者として名前の挙がっている教員に共通する思いは、業界事情や具体的な手法といったことにもまして、創作行為に対する作り手の姿勢にほかならない。そもそも、早稲田大学には、映画・映像制作を専門的に学ぶ学部や学科はない。異なる学部の学生たちが集まって、一週間に一回の授業で技術教育を行ったとしても限界があるだろう。むしろ、「耳を傾けること」「対話すること」にこそ、何かを創り出すこと、生み出すことの歓びの源泉があるのではないか。ゲストや教員が一方的に語るのではない。履修する学生とのディスカッションが言葉や思考を繋ぎ、リズムを紡ぎ出す。ともにその場を築こうとすることによって、授業は魅力的かつスリルに富むものとなる。「マスターズ・オブ・シネマ」が目指すのは、この意味における「現場」だと編者は考えている。

(土田環)

広報委員長:香川檀
広報委員:利根川由奈、増田展大、白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2018年10月16日 発行