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NUFS Premium Cinema Talk シリーズ No.6 刊行記念トーク「世界は映画でできている」

報告:白井史人

【日時】2021 年 8 月 2 日(月)14:00~15:30(オンライン)
【登壇者】
石田聖子(名古屋外国語大学准教授)
白井史人(名古屋外国語大学准教授)
沼野充義(名古屋外国語大学副学長)

主催: 名古屋外国語大学ワールドリベラルアーツセンター
後援: 名古屋外国語大学出版会
協力: ジュンク堂書店名古屋栄店


名古屋外国語大学の教養科目の教科書として刊行された『世界は映画でできている』(石田・白井編、2021年3月刊行、名古屋外国語大学出版会)は、さまざまな言語や地域を専門とする執筆陣が、社会や歴史との関わりのなかで映画を論じた入門書である。この刊行記念トークでは、本書に寄稿した沼野充義(ロシア・東欧)、石田聖子(イタリア)、白井史人(ドイツ)が、それぞれが専門とする言語・地域の映画に関する担当論考を紹介し、ディスカッションを行った。

はじめに本書の編著者の白井が、書籍の成立経緯と構成を紹介した上で、「世界は映画でできている」という本書のタイトルに示された、映画史と現代の映像文化をめぐる問題意識を提示した(詳しくは『REPRE』43号の新刊紹介を参照 https://www.repre.org/repre/vol43/books/editing-multiple/shirai/)。次に、石田聖子が、サ イレント映画期のイタリア史劇からネオレアリズモに至るイタリア映画史の黄金期を概観し、『自転車泥棒』(ヴィットーリオ・デ・シーカ監督、1946年)の詳細な映像分析に関する論述を要約した。続いて白井が、ドイツ映画史の傾向を、無声映画期、ファシズム政権下、 東西分断期から現代にいたるまで足早に概観した。次に、無声映画『最後の人』(F.W.ムルナウ監督、1924年)の上映形態を、ドイツやアメリカでの伴奏譜や、日本でのチラシなど の一次資料をもとに比較することで、「ドイツ映画」の境界を撹乱するパフォーマンスとしての上映という側面へ目を向けた。さらに沼野は、無声映画期から現代にいたるロシア・東欧の映画に関して、文学、翻訳をめぐる豊かな知見と経験を背景に、パラジャーノフやアレクセイ・ゲルマンら映像表現の限界に挑む作家たちの魅力を語った。

本イベントは一般向けのトークであると同時に、白井が担当する集中講義「映画論」の一環であり、事前に書籍に目を通した受講生たちの質問をもとにディスカッションを進めた。 受講生からは多様な観点の質問やコメントが寄せられたが、とりわけファシズムや検閲と映画との関係への関心が高かった。第2次世界大戦期のイタリアとドイツのファシズム、東西冷戦期のソ連と東ドイツなど、ゆるやかに重なり合うこれらの問題は、地域をまたがって共通するトピックをあぶり出し、本書の議論を横断的に深めるものとなった。その一方で、フロアからは「各国におけるおすすめの恋愛映画を一本ずつ知りたい」という登壇者の虚を衝くような質問もあり、和やかな進行のなかにも新鮮な発見に満ちたイベントであった。

本イベントを終えて、各地域の映画史とその歴史記述のズレと豊かさをあらためて感じるとともに、国別・地域別の視点から世界の映画史を「埋めていく」作業とは違う視点も必要とされていることを痛感した。時間や権利の都合上、映像を見ながら場面を具体的に分析する作業は実施できなかったが、本イベント以降も、大学図書館を活用し、本書を題材とした上映トークシリーズ「世界の映画を見て語る」(https://www.nufs.ac.jp/library_facilities/wla-center/2021/movie/)などで、映像を見る体験と分析を結びつける試みを実施している。教科書として生まれた書籍を、いかに読み、いかに使っていくのかという点でも、模索は続くことになろう。

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(白井史人)


広報委員長:香川檀
広報委員:大池惣太郎、岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2022年3月3日 発行