PRE・face

表象文化論の「傾向と対策」

鯖江秀樹

「3年後にあそこで会おうぜ」と友人たちと盛り上がっていたが、実際行ってみると諸々の事情があったのか、自分しかいなかった──

そんな感じで、わたしはいつの間にか研究発表会の当番校責任者になっていた。シンポジウムを取り仕切り、光栄にもその司会を務めた。条件つきながら久しぶりの対面開催が実現できたのは、多くの人の助けがあってのことだった。記して御礼申し上げたい。

他方で、会場となる教室の確保を皮切りに、シンポジウムのテーマとパネリストの選定、機材の調達や設営までの段取り、開催後の事務処理などはすべてひとりでこなした。大変な作業だったが、比較的余裕をもって諸事を執り行うことができたし、今後に生かせる貴重な経験も得た。この充実感はひとりならではの身軽さに起因する。それに加えてもうひとつ、冷静な仕事を後押ししてくれたのが、表象文化論学会のホームページ、特に「大会・研究発表集会一覧」の記録だった。

2006年、第1回研究発表集会に登壇して以来、わたしが学会員になって15年が経過した。ただ、2010年代前半は学会イベントにほとんど参加しなかった。不真面目な学会員が、いざ責任者という大役を任されることになったとき、真っ先に気になったのは「これまではどうだったのか」ということである。過去のシンポジウムとの重複を回避し、かつ当番校のリソースを生かしつつ、アクチュアルな関心を呼ぶテーマとは何なのか? 決定の方法は様々あるなかで、わたしは過去の開催履歴の流れを把握し、そこから対策を立てることにした。

傾向と対策──それは、しかるべき場所に一定の量と質を保った情報が保管されていることで初めて可能となる(しかし日本ではいま、当然なされるべき記録の蓄積がないがしろにされている)。これを機に、他の学会ホームページも閲覧してみた。予想通り形式がまちまちだったり、リンクが切れているサイトも多かった。表象文化論学会のホームページほど、一貫した形式と充実した過去履歴の保管とその維持を誇る場所はないだろう。間もなく任期を終えるが、広報委員としての仕事は、だから必要だったんだと、いまさらながら悟った。

やはり分不相応にもこの文章を書くにあたり、歴代のPRE・faceを読み直した。それによると、ある時期から長尺化の傾向が顕著だ。内容もより精緻なものとなり、註を付した論文のような体裁も多いようだ。であれば、このあたりで一旦この流れをリセットするのも悪くないだろう──もしかしたら、この内的な呟きに近いわたしの思考もまた、「ディスコミニケーションの交感」(宮崎裕助「PRE・face 思考の同期性」『REPRE』第14号)の一形態なのかもしれない。

ひとりがこうしてひとりでなくなっていくのは決して悪いもんじゃない。

広報委員長:香川檀
広報委員:大池惣太郎、岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2022年3月3日 発行