トピックス

愛知県芸術劇場 ダンス・スコーレ特別講座シンポジウム 「踊る女性の身体:ドイツ・イタリア・ロシアのアヴァンギャルド舞踊」

報告:山口庸子

日時:2021年3月27日(土) 13:00〜16:00
場所:愛知芸術文化センター アートスペースA (12階)
主催:科研B研究グループ「歴史的アヴァンギャルドの作品と芸術実践におけるジェンダーをめぐる言説と表象の研究」(科研・基盤B:19H01244、研究代表者:西岡あかね)、愛知県芸術劇場
共催: 東京外国語大学総合文化研究所、名古屋大学大学院人文学研究科
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)、独立行政法人日本芸術文化振興会

発表者:山口庸子(名古屋大学)、柴田隆子(専修大学)、横田さやか(東京大学大学院)、梶彩子(東京外国語大学大学院)
司会:西岡あかね(東京外国語大学)
コメンテーター:唐津絵理(愛知県芸術劇場シニアプロデューサー)


20世紀初頭のヨーロッパにおける歴史的アヴァンギャルドは、主として男性芸術家の運動として記述されてきたが、実際には、多くの女性芸術家が参加していた。特に舞踊では、その担い手や支持者は女性が圧倒的に多い。従って、アヴァンギャルドの舞踊とジェンダーについて論じることは、従来の研究の空白を埋める先駆的な意義があると思われる。

本シンポジウムは、愛知県芸術劇場の舞踊専門の学芸員である唐津絵理氏の参加を得て、科研グループ「歴史的アヴァンギャルドの作品と芸術実践におけるジェンダーをめぐる言説と表象の研究」と愛知県芸術劇場との並び主催とし、芸術劇場が企画・運営する「ダンス・スコーレ」と連携して、その「特別講座」という位置づけで開催した。共催は東京外国語大学総合文化研究所と、名古屋大学大学院人文学研究科であった。

シンポジウムでは、まず西岡あかね氏が趣旨説明を行い、歴史的アヴァンギャルドにおける「新しい人間」の言説や表象の重要性を述べた。本シンポジウムで取り上げたドイツ、イタリア、ロシアは、ヨーロッパの近代化における後発地域であるが、それゆえにかえって芸術表現は急進化しやすかった。そのような歴史的状況と女性芸術家の実践とがどのように結びつくかが本シンポジウムで問われたことであった。

発表では、最初に山口が、「ドイツ表現舞踊の仮面と女性」として、ドイツの表現舞踊におけるヴィグマン、ヴァイト、マルクス、シュルツの仮面舞踊を取り上げ、ワイマール時代の「新しい女性」たちが直面した、顔と身体の自己管理への圧力と対比しつつ議論した。ついで『オスカー・シュレンマー バウハウスの舞台芸術』(水声社、2021)を上梓したばかりの柴田隆子氏が、「バウハウス・ダンスにおける〈女性〉の身体」として、学校組織としてのバウハウスおよびシュレンマーのパフォーマンスについて読み解いた。男性パフォーマーが女性の仮面をつけた「女たちの舞踊」では、女性性が、素材としての「人間」に加えられる要素として機能しており、「棒ダンス」における「棒+人間」などと同じように「女性+人間」として理解されうることを示した。イタリア未来派の舞踊を専門とする横田さやか氏は、「イタリア未来派と踊る女性の身体表象」という題で発表した。横田氏は、踊り、飛行する女性の身体が、未来派の理想的身体を体現していることを、豊富な例を挙げて説明した。また、未来派の宣言文の男尊女卑的傾向をそのまま受け取ることに注意を喚起し、実際には「航空ダンス」を踊ったチェンシなど、女性芸術家が主体的に活動していることを指摘した。ロシア留学中の梶彩子氏の発表「ロシア・アヴァンギャルドの踊る女性たち」は、ズームでの参加となった。イサドラ・ダンカンの強い影響を受けたロシアの6人の舞踊家、ラベネク、アレクセーエワ、ルドネワ、チェルネツカヤ、マイヤ、ツヴェターエヴァのまとまった紹介は、本邦初であったのではないかと思われる。

コメンテーターの唐津氏からは、イタリア未来派における女性身体の表象や、ロシア・アヴァンギャルド舞踊と体操やサーカスとの繋がりなど、個々の発表者へのきめ細かな質問とともに、同時代の他国での動向や、他の芸術ジャンルとどのような関係があったのか、という全体を俯瞰するような質問が投げかけられた。 シンポジウム全体として、アヴァンギャルド芸術における多様な女性舞踊家たちの存在や、ジェンダーをめぐる表現が明らかとなった。また舞踊史の主流から見れば周縁にあたる現象を観察することで、各国舞踊史の縦割りでは見えてこない、地域を超えたネットワークの広がりが見えたことも収穫であった。各発表者に共通するモチーフとして、仮面、機械、人形などが期せずして浮かび上がり、フロアからの質問にもしばしば登場したことも興味深かった。

本シンポジウムは、コロナ禍で一年の開催延期を余儀なくされたが、関係者のほか、関西・関東など他地域からも含めて100名以上の参加があった。質問は、マイクを使わず、slidoを使って投稿してもらい、それを司会者が拾う、などして感染リスクの軽減に努めたが、一年ぶりに対面でのシンポジウムに参加したという声も多く、コロナ禍における学術集会の在り方について、考えさせれられた。 なお、当科研では、今年11月27日に『私の女性史』と題する講演会を予定しており、来年3月19日には、再び愛知県芸術劇場と協同でシンポジウムを行う。今後もイベントを開催していく予定なので、関心のある方は、以下のホームページを訪問して下されば幸いである。「歴史的アヴァンギャルドの作品と芸術実践におけるジェンダーをめぐる言説と表象の研究」

シンポジウムチラシ.pdf

(山口庸子)

広報委員長:香川檀
広報委員:大池惣太郎、岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2021年10月25日 発行