新刊紹介 編著、翻訳など 『叢書アレテイア 13 批評理論と社会理論 1:アイステーシス』

『叢書アレテイア 13 批評理論と社会理論 1:アイステーシス』
石田圭子・天内大樹ほか(分担執筆)、仲正昌樹(編)
御茶の水書房、2011年10月

自律的な「美」に関わる概念的思考が様々な次元で生活に介在する感性一般へ関心を向け始め、また「芸術」の営みが人間関係や社会のプラットフォームという側面を強調しつつあり、各々ポスト近代の動きを示している。本書は社会との関係から広く批評理論一般を捉える企画のうち、前半部として芸術を中心に具体的な営みに近い論考を揃えたものである(続いて刊行されるだろう後半は、思想史に近い論考を揃える予定)。

編者の仲正昌樹氏は著作権に代表される芸術作品の所有権について簡約し、田中均氏は「社会関与型(参加型)芸術」をめぐる批評の限界とその先の観客の参加可能性を論じる。石田圭子氏は戦間期ドイツにおける「形姿Gestalt」の語法を通じた政治と芸術の連携を記述し、柳沢史明氏はいわゆる黒人芸術の受容と被支配側の戦略的流用の両面から政治性をひもとく。森功次氏は作品の倫理性と芸術的価値が連動するか否かを最新の分析美学の検討を通じ解説する。荒井裕樹氏は精神的困難を抱える者の表現行為について臨床的立場から言語化を試み、また権安理氏は現代において風景として浮上した廃校の「活用」をめぐる視点を整理する。古市太郎氏はB級グルメなど地域資源の発掘を風土と呼応した場所の再発見・再創造と捉える。天内は建築構造学研究者の戦前の言説に潜む政治性を、美や美術への態度のネガとして読み込む。小林史明氏は映画と裁判両面での証言の不完全性に根ざした議論を整理し法と文学の言語的調停を図る。

編者の取捨選択や配列が介在したとはいえ、基本的には論文集の体裁であり、例えば共著者同士で内容の連関を調整するなどは行っていない。しかしこれだけの幅広い視点と材料の中から、複数の論考に伏在する文脈を読者が読み取ったり、軸を自由に設定して論題群を整理することも可能だろう。

筆者の思いつきにすぎないが、当面問題となった空間でみると、柳沢氏の大陸間、石田氏や天内の国家、権氏や古市氏の地域、田中氏の(美術館や劇場などの)ホール、小林氏の撮影現場または法廷、荒井氏の(二人が相対する)テーブルといった規模の順列が思い浮かぶ(森氏はこの整理には載りにくい普遍的な議論を行っている)。青森県の黒石や浪岡を最近訪れた筆者は、古市氏や権氏の論考から、黒石焼きそばや王余魚沢倶楽部(かれいざわくらぶ)も想起する。また田中氏の論考は『表象』05号所載のクレア・ビショップ「敵対と関係性の美学」(星野太訳)と直接関連する。

読者の関心に直接響く論考は一部にとどまるかも知れないが、執筆者の一人としては、一旦その関心の外に出てみるつもりで、まずは軽く目を通してほしいと思う。(天内大樹)