リアル・メイキング:いかにして「神」は現実となるのか

神のような、信仰の対象になる目に見えない存在は、それを信じる者にとっていかにして「リアル」なものになるのだろうか。本書はそのメカニズムを、様々な宗教、宗派へのフィールドワークと認知科学ベースの調査をもとに分析した研究書、How God Becomes Real: Kindling the Presence of Invisible Others(Princeton University Press, 2020)の全訳である。著者のターニャ・ラーマンはスタンフォード大学、人類学部の教授で、精神医療まで人間の「心 mind」に関わることを幅広く研究してきた。その関心の中心にあるのは、心が生み出す最も不可思議な現象(神々、霊、幻視、幻聴、魔術)である。ラーマンの射程がいわゆる一神教的宗教に限定されない広さを持つことを端的に伝えるために、本書の邦訳タイトルは、ラーマン自身にも相談の上で「リアル・メイキング」とした。
ラーマンの研究の特徴は、多くの人類学者や宗教学者が採ってきたアプローチと異なり、神々や霊、魔術といった現象を単なる個人の思い込みや信念だと断定しない点にある。もちろん「神」や幻聴がリアルであることは、テーブルや椅子がリアルであるのとは異なる。しかし、何らかの仕方で現実だと感じ、リアルに感じるために祈ったり、儀式をしたり、多くのコストを割いて努力する人たちがいることは紛れも無い事実だ。ラーマンの見立てでは、このように宗教や魔術を実践する人たちの「リアル・メイキング」は、私たちが小説のキャラクターをリアルに感じることや子供の頃のごっこ遊びに近い。筆者はラーマンの研究をファン心理の分析に応用したが、それ以外にもVR研究や芸術研究にも資する内容が含まれていると考えている。
(柳澤田実)