翻訳
美学入門
人文書院
2025年2月
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美学に興味を持った大学生や一般読者が気軽に手に取れる入門書としては、佐々木健一『美学への招待』が長らく定番となってきたが、ここ数年、日本語で読める優れた入門書が立て続けに出版され、ラインナップがにわかに豊富になってきた。本書もまた、ここに新たに加わる一冊と言えるが、類書と比べた際のユニークな点は、まず美学の中心的なテーマとして注意というトピックを重視しているところだろう。著者は心理学の知見なども参照しつつ、人間の美的経験において注意の働きがいかに決定的な役割を果たすかという点を強調する。また、西洋人の著者によって書かれた入門書でありながら、西洋の美学的伝統に対して明確な距離を置いている点も興味深い。本書は、西洋に限らない思想的伝統に立脚した美学として「グローバルな美学」を提唱するのである。さらに、美学において従来そこまで重視されてこなかった注意という論点にあらためて光を当てるのも、このトピックが西洋の枠組みにとらわれない可能性を有するためである。このように、企図やアプローチにおいてはかなり挑戦的なところもある本書だが、語り口はいたって平易で、初学者にも手に取ってもらいやすいのではないかと思う。
(武田宙也)