編著/共著

金山弘昌 (著)、 喜多村明里 (著)、 伊藤博明 (著)

神秘のアルストピア 美の起源としての人体表象 (イタリア美術叢書 8)

ありな書房
2025年2月
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イタリア・ルネサンス美術は人体をいかに表象したのか、本書はいわば、初期近代の西欧美術にみる人体美の希求と偏愛の実情を探り確かめる試みとなっている。

古典古代に着想を得たレオナルド・ダ・ヴィンチの素描《ウィトルウィウス的人体》と、彼とその工房に帰される板絵群《レダと白鳥》――レオナルドには珍しい女性裸体画――の造形は、人間とその身体の理想をめぐる重要な到達点を示し、後世に大きな影響を与えた。他方、P・アレティーノの淫猥詩テクストとジュリオ・ロマーノによる原画挿絵(散逸)を元に、性交の様態や体位を見事にうたいあげる版画挿絵入りの奇書『イ・モーディ』と、これに連関する16世紀の素描・版画群は、「古代異教の神々の愛の行為」を描くという体裁で、欲情に満ちた裸体をとらえる。賞賛と懲罰のはざまにあった作例をめぐる詳細精緻な分析論考は日本初であり、ポルノグラフィ史を考えるうえでも重要だろう。

そのほか、ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂天井フレスコの周縁部に配した謎の美青年たちの裸体、通称《イニューディ》は、現代のトップ・モデルやアスリート達の肉体美を超える必見の青年裸像群だが、それらが作者ミケランジェロ自身の「署名」に相当する、とみなす解釈は興味深い。最終章では〈キリスト哀悼〉や〈ピエタ〉にみる「キリストの身体」について、「人の子」としてのイエスの受難の〈死〉と、「神の子」としての〈復活〉や〈永遠〉を思わせる〈人体〉を美術家たちはどのように表現したのか、という問題の微妙な難しさと面白さを深く掘り下げている。

「美しい人体」とは果たして何か、何であったのか、という問題の委細を探りつつ、読者は考えを新たにすることだろう。多彩な視点、詳細な研究情報と豊富な図版(モノクローム)を含む本書は、〈人体表象〉の文化史を考えるうえで大いに参考となる。

(喜多村明里)

広報委員長:原瑠璃彦
広報委員:居村匠、岡本佳子、菊間晴子、角尾宣信、堀切克洋、二宮望
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2025年6月29日 発行