第14回研究発表集会報告

ワークショップ 映像アーカイブの未来を考える

報告:今井瞳良

日時:14:45-16:25
場所:大岡山西講義棟2(西3号館)W371

とちぎあきら(株式会社IMAGICA Lab.)
常石史子(オーストリア国立フィルム・アーカイヴ)
小川佐和子(北海道大学)
ミツヨ・ワダ・マルシアーノ(京都大学)


ワークショップ「映像アーカイブの未来を考える」は、デジタル映像アーカイブの必要性についての短い提案/現状報告から始まった。

とちぎあきら氏からは、収集・安全保護・長期保管・検査・登録・クリーニング・補修・保存復元まで、映像アーカイブの流れが簡単に紹介され、アーカイブ活動の「花形」であるフィルムの検査・記録・クリーニング・補修までを行う「整理場」での作業を中心に報告がなされた。フィルムの検査では、コンテンツだけでなく、マテリアルとしての情報が記録され、その記録に基づいて行われるクリーニング・補修では、使用目的が考慮される。クリーニング・補修作業では、ユーザーの視点が必要になるという。「整理場」でのフィルムアーカイブ活動の報告から、記録を共有するアーキヴィスト間のコミュニケーションの重要性とともに、アーカイブ活動には、ユーザーも含まれていることが示唆された。

とちぎ氏がフィルムのアーカイブに関する報告であったのに対し、常石史子氏からはデジタル映像アーカイブの観点から、ホーム・ムーヴィーのデジタル化の実践を事例とした報告がなされた。外部に情報がないホーム・ムーヴィーでは、歴史的価値の高い記録映像であれば人名・イベント・年月日の特定が可能であるが、基本的に所有者からの聞き取りが重要となる。この点において、容易にばら撒くことが可能なデジタル資材は、映っている場所などの情報を集めるのに大きな利点となっていることが紹介された。デジタル化によって、原資料の保存とアクセスの両立が可能になり、アーカイブと研究の齟齬が埋められるようになった一方で、膨大な数のアーカイブにはアクセスを高めるカテゴリーやタグの整備が必要となる。カテゴリー・タグは、最短ではなくとも、ユーザーが資料へと辿り着くことを目的とし、ここでもユーザーの視点が強調された。映像アーカイブには、すべての資料を平等に並べる水平方向だけでなく、内容のカテゴリー・タグでは漏れてしまうカラー技術などメディア史的な価値をすくい上げる垂直方向の視点が必要であり、資材を扱う技術的な専門性だけでなく、知識が求められることも指摘された。

小川佐和子氏からは、ユーザーの観点からデジタルとフィルムが共存している映像アーカイブの現状について、1907-1920年のヨーロッパの無声映画150本を調査した事例が報告された。まず、デジタルとフィルムそれぞれの長所、短所が指摘された。簡単にまとめると、フィルムの同定などコンテンツとしての情報を調査する場合はデジタルが向いているが、色調の濃度や奥行き、テクスチャーなどオリジナルに近い状態での確認はフィルムにしかできない。また、映画祭など上映を目的とする場合は、フィルムが上映素材として適切か確認できるのも重要であろう。加えて、現存と消失の間として、劣化ナイトレートフィルムが、文化遺産なのか、危険廃棄物なのか判断が下せないマテリアルとして存在していることが指摘された。そして、デジタル化によって世界各国の専門家に資材を送ることが可能になったため、フィルム同定作業の効率があがり、ユーザーによって、アーカイブが開かれる事例が紹介された。フィルムとデジタルが共存していることによって、目的に合わせた選択が可能になっている現状と、ユーザーが関わることによってアーカイブが進展していく過程が紹介された。

ミツヨ・ワダ・マルシアーノ氏からは、文化資源戦略会議、デジタルアーカイブ学会を中心に提言されている国立デジタルアーカイブセンターへの疑義と、「対案」としてのデジタル映像アーカイブの構想が提示された。東京中心でトップダウン式のアーカイブとして提言されている国立デジタルアーカイブセンターに対して、ワダ氏は各地に点在する映像アーカイブの連携に基づいたボトムアップ式のアーカイブ構想を提示した。これは上記三名によって、アーキヴィスト間、アーキヴィスト/ユーザーのコミュニケーションに基づいたアーカイブ活動の実践が報告されたことを受けた構想だと言えるだろう。国内施設の連携だけでなく、東アジア諸国を中心に海外の映像アーカイブとの協力も視野に入れた環境づくり、権利・政策の問題などの課題が指摘され、今後は国内・海外アーカイブ環境の現状調査からアプローチしていくことが宣言された。

「短い提案/現状報告」とは名ばかりの具体的な事例に基づいた濃密な発表に対してフロアからは、誰がアーカイブするものを決めるのか、デジタル映像アーカイブは何を守るのか、デジタル化が進んでいく中でアーカイブが守るシネマ/映画をどう考えるのか、デジタルアーカイブ学会との関係など、政治的な問題が指摘された。確かに、デジタル映像アーカイブの構想には、環境づくりだけでなく実務的・経済的・政治的・思想的な問題など課題は山積している。しかし、まずユーザーとして活用することが、アーカイブを進展させる第一歩であるという、言われてみれば当然の事実を考えさせられた。

今井瞳良(京都大学)


デジタル映像アーカイブ構想が謳われ始め久しい。しかし、その実態は未だ詳らかにされていない。本ワークショップでは、映像アーカイブの未来がどのようになる事が望ましいのか、会場の参加者と共にラウンドテーブル形式で議論する。日本の映像アーカイブの未来を考えるとき、トップダウンの判断や命令から生まれるのではなく、多くのユーザーの希望や利益に結びつくものであるべきだとわれわれは考える。国内の政治・経済的な利便性だけに左右されるのではなく、グローバルレベルで推し進められてきたデジタルアーカイブへの様々な現状を把握し、歴史的な映像アーカイブ活動の流れの中から求められるボトムアップの在り方を再考することが今求められている。そのためにはどうすれば良いのか?4人の登壇者がまず異なる視点から短い提案/現状報告をし、その後議論を会場全員に拡げる参加型のワークショップである。

広報委員長:香川檀
広報委員:白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2020年2月29日 発行