日時:2006年11月19日(日)
会場:東京外国語大学 府中キャンパス研究講義棟227教室

*この発表は創作活動のプレゼンテーションを含むもので、時間を長くしてあります。

・相内啓司(京都精華大学) 『兎歩の舞』における空間、出来事のイマージュ化について

【司会】小林康夫(東京大学)


表現の現場としての演劇的空間は物理的な要素によって構成される空間と出来事によって成立するが、鑑賞者の経験領域ではたんに物理的な事象としての空間がそこにあり、時間が経過しているのではないということが想像される。演劇的な空間においてはさまざまな構成要素がそれぞれの固有の機能を伴いながら次々に引き起こされる出来事によって時間化され延長される。引き起こされる出来事によって時間化された構成要素は日常の中での透明な存在(機能的存在)であることを止めて、しだいに不透明なオブジェ(機能から切断されたもの/現象)として視覚的にも心理的にも映り始めるのではないだろうか。演劇的な空間はオブジェとしての不透明で露な存在と出来事が重なり合う様相を紡ぎだすことによって、そのような光景をまさにイマージュが生成し戯れる場として組織するといえないだろうか。

ここでは2006年7月22日に川口・アート・ファクトリー(KAF・キューポラ)と、2006年10月13日に「京都メディアアート週間」(京都ドイツ文化センター)で行われた〈水蛭子〉プロジェクトによる公演『兎歩の舞い』をとりあげ、物理的な時空間がどのようにイマージュ化された生成の場として組織化されようとしたのかを表現の現場から報告したい。

このプロジェクトは音楽(声明、ホーメイ)、音響(デジタル、アナログ)、テクスト(古事記、仏教教典)、舞踊(白拍子、インプロビゼーション)、インスタレーション、オブジェ、映像の複合的な要素からなり、4人のアーティストによるコラボレーションである。

『兎歩の舞い』では起源としての芸術、存在の根源に想いを馳せることがテーマ化されているが、そこには古典的なテクストである、古事記、仏教、民族音楽、白拍子と現在性を持った諸要素、映像メディア、実験映画、記録映像、インタラクティブな映像―音響生成システム、現代美術、身体性が交錯し、ときにそれらが前景化、背景化、合成、混在化する。非常に狭い空間でありながら、悠久・無限に時間化されたイマージュとしての光景が繰り広げられたような気がするのだが...。

*ユニット〈水蛭子〉はこのプロジェクトのために組織された:桜井真樹子(声明、ホーメイ、白拍子、演出)、相内啓司(映像、インスタレーション、演出)、緒方香織(映像)+小川聡一郎(音響)