2025年8月31日(日)16:00-18:00
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80年目の8月──岡部昌生と記憶の芸術

岡部昌生(美術家、元札幌大谷大学)
港千尋(多摩美術大学) 
伊藤佐紀(さっぽろ芸術文化研究所)
【司会】香川檀(武蔵大学)


 フロッタージュ技法で知られる美術家、岡部昌生の創作は、現場に這いつくばり、場所に触れることで生まれる芸術である。そのようにして彼は、都市の日常的営みの痕跡、森の樹木の生命力、日本の近代化の産業遺産などを半世紀にわたって擦りとってきた。なかでも日本の負の歴史を扱った、広島の戦争と原爆の記憶にまつわる作品《旧宇品駅プラットホーム遺構》(2002/2004年)は、岡部の代表作として国際芸術祭ヴェネチア・ビエンナーレ(2007年)で広く世界に紹介された。
 本パネルでは、戦後80年の節目にあたって岡部の活動を振り返り、その触覚をつうじたコミュニケーションの芸術を、記憶伝承や平和学習のためのワークショップ用メソッドという、万人が共有可能なものへとプログラム化する可能性を探る。また、そのための雛型となる岡部の制作と作品を、映像化も含めてどのように記録し、アーカイブしていくのかという問題を考える。
 国際的な拡がりをもつ岡部の創作は、韓国や台湾での制作とワークショップをつうじて、歴史的過去の「記憶の共有」という面を色濃くもっている。戦後80年目の夏だからこそ提起されるべき、アクチュアルなテーマといえよう。

[本パネルは、科研費基盤研究(B)「現代美術の触覚的体験を用いた平和学習のメソッド構築」(課題番号:23K21902. 研究代表者:港千尋 多摩美術大学教授)の成果の一部である。]

岡部昌生
1942年、北海道根室市生まれ。現代美術家、元札幌大谷大学教授。フロッタージュによる表現を1977年より始め、都市(場所)の歴史(痕跡)との対話を続ける。1979年、パリで169点の「都市の皮膚」を制作。1980年代後半より広島の原爆の痕跡を作品化する。1996年には、広島平和記念公園でのワークショップ《ヒロシマ・メモワール 96》を実施。2007年、ヴェネチア・ビエンナーレ日本代表(日本館コミッショナー:港千尋)。東日本大震災後には「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」(福島県立博物館、2012-17年)の招聘作家として被災地で制作。2021年には韓国・済州島で日韓の軍用飛行場をテーマとした「Runway of Memory: From the Island of Forest to the Island of Stone」展を開催。現地でのワークショップを計画するが、新型コロナのために渡航できず、韓国側の参加者だけで作品を完成させた(済州アートスペースC)。
書籍に、港千尋編『岡部昌生 わたしたちの過去に未来はあるのか:The Dark Face of the Light』(2007年、東京大学出版会)など。