2022年11月12日(土)
午前13:30-15:30

  • いかに「準備」しないか──即興演劇の上演形式「The Bechdel Test」における関係性の「発見」

直井玲子(東京学芸大学)
園部友里恵(三重大学)


 私たちは、即興演劇におけるジェンダーバイアスの問題を扱う先進的実践として、米国で開発された上演形式「The Bechdel Test」(以下「BT」と略記)を日本で継続的に実践・研究している。「表象文化論学会 第15回研究発表集会」(2021)では、BTにおいて主人公像を決定するのは誰かという点に着目し、主人公役の女性が自ら「決めた」と思えるようにするための工夫について、実際に体験しながら検討するワークショップを実施した。今回取り上げるのは、BTの中核をなす「スナップショット」と呼ばれる短いシーンの連なりである。スナップショットの目的は、主人公の日常における多面的で複雑な姿を描き出すことであり、主人公の人生の様々な場面や表情を、写真を撮るかのように断片的に描いていくというものである。
 即興演劇において、演者たちは、無意識のうちに様々な「準備」をしてしまう。BTのスナップショットでは、脇役の演者が事前に「準備」した関係性を主人公役の女性演者にしかけることにより、主人公役は脇役からコントロールされているように見えてしまう場合がある。本ワークショップでは、こうした状態を乗り越えるための手がかりとして「discover」(役同士の関係性をその場でともに発見すること)に着目する。
 ワークショップ前半では、私たちの過去の実践映像をもとに、BTの概要、およびスナップショットで起こりがちな問題について説明する。後半では、いかに「準備」せずに共演者との未知の関係性のなかに身を置けるかということについて、即興演劇のアクティビティを通して考えていく。なお、当日行うアクティビティについても「準備」をせず、参加者の人数や様子をみながら、即興的に決めていく。その際、参加者に過剰な負担をかけないような進行を心がける。以上を通して、スナップショットにおける主人公役の女性とそれに対峙する共演者のシーン構築のあり方について検討する。