2022年7月3日(日)10:00-12:00
2階210番教室

・アンドレ・バザンと「映画理論」/角井誠(東京都立大学)
・映画理論の周縁から──トム・ガニングをめぐって/長谷正人(早稲田大学)
・鑑賞の時間を操作する/細馬宏通(早稲田大学)
・観客論の視座/伊津野知多(日本映画大学)
・フェミニスト映画理論の現在/木下千花(京都大学)
【司会】堀潤之(関西大学)

 いま、映画理論の有用性はどこにあるのか。デイヴィッド・ボードウェルとノエル・キャロルが「ポスト・セオリー」を謳ってからはや四半世紀が経った現在、それによって相対化された記号学や精神分析に基づく大文字の「理論」は、はたして有用性を失ってしまったのだろうか。また、2000年代以降とりわけアンドレ・バザンを筆頭に、映画研究が制度的に確立される以前の映画論に改めて注目が集まってきたことをどう捉えればよいのか。さらに、デジタル化の進展によって映画のアイデンティティが絶えず問い直されている現在において、映像全般をめぐる知的言説をどのように鋳直すことが可能だろうか。そもそも、映画をめぐる「理論」とは何を指すのだろうか。
 日本では最近、欧米におけるバザン再読の流れに棹さしつつ、この批評家の多面性を浮かび上がらせようとした研究誌『アンドレ・バザン研究』全6号(2017–22年)が完結する一方で、「アトラクションの映画」(1986年)で初期映画研究に活力をもたらして以来、映画にとどまらず視覚文化全般にわたって精力的な研究を続けているトム・ガニングの論考を「動き」を軸に据えて精撰した『映像が動き出すとき』(長谷正人編訳、みすず書房、2021年)が刊行された。さらに、古典的映画論から映画批評を経て、フィルム・スタディーズや哲学的な映画論まで、21人の映画論者による思考を概説した『映画論の冒険者たち』(堀潤之・木原圭翔編、東京大学出版会、2021年)によって、およそ百年間にわたる映画論のささやかな総括も試みられている。
 こうした状況も踏まえ、本ワークショップでは、バザンとガニングの仕事の再検討を出発点として、間メディア性、観客、フェミニズムといったテーマに即しながら、映画・映像理論の現状とその意義について多様な観点から討議する。