新刊紹介 単著 『ルネサンスの聖史劇』

杉山博昭
『ルネサンスの聖史劇』
中央公論新社、2013年2月

本書は15世紀フィレンツェの聖史劇(平信徒からなる兄弟会の祝祭委員が上演した宗教劇の一種)とはいかなるものであり、社会においてどのように受容されていたのかについて、台本・制作・上演という三要素を軸に包括的に考察した研究書である。著者が冒頭で指摘しているように、イタリア・ルネサンスの祝祭や演芸におけるキリスト教的表象に関しては世俗的・異教的表象に比べて研究が少なく、とりわけイタリア研究を専門としない者でも手に取れるような日本語文献はこれまであまりなかった。こうしたことを考慮すると、台本の翻訳をはじめとする大量のデータと、写本検討から特殊効果技術まで幅広い学際的分析を含んだ本書は、気軽に読めるようなものではないにせよ、演劇史やイタリア研究のみならず美術史や技術史の研究者にとって非常に意義のある著作であると言えるであろう。とりわけ、閃光と爆発に彩られ、火薬のにおいが漂う中で観客と舞台が対峙する危険なスペクタクル空間としての聖史劇の場を再構成する第3章は、宗教劇という言葉から想像される静謐なイメージを打ち消すような新鮮な驚きを提供してくれる。(北村紗衣)