トピックス

『水声通信』表象文化論学会特集号

今回、基調講演をお願いしたヤンポリスキー氏の『迷宮とデーモン』の翻訳の版元でもある水声社編集部と相談のうえ、今回の学会の一部とプレイベントとして前日にわたしが行った吉田喜重監督とのトークの記録を中心にした特集「表象とスクリーン」を企画しました。ヤンポリスキー氏の講演は長大すぎて掲載できませんでしたが、こちらの要請を受けて帰国後の忙しいところに、中心テーマのひとつであった「フリッカリング」について新たにテクストを書いてくださったのを掲載し、また中島隆博氏がヤンポリスキー氏の基調講演の内容を踏まえてその主題だったシクロフスキー『動物園』のテクスト読解を書き下ろしてくれました。また、ヤンポリスキー氏へのインタビューも掲載しています。さらに会長に選出された松浦寿輝氏からもエッセイをいただきました。学会発表のなかでは、「スクリーン」というテーマを中心にした理論的な掘り下げという趣旨にそって、加國尚志、原 和之、大橋完太郎、北野圭介、貝澤 哉の諸氏に、それぞれの発表の一部を新たに書き直してくださるようにお願いしました。もとより今回の学会の一断面にすぎませんが、それでもなんとか社会に対して発信する形を模索することは大事だと考えて企画したものです。8月下旬には出版されます。安価ですので、ご一読いただければ幸いです。(小林康夫)

雑誌『SITE ZERO/ZERO SITE』創刊

7月末にメディア・デザイン研究所より、人文・社会科学雑誌『SITE ZERO/ZERO SITE』が創刊された。この号を含め、当分の間、私が責任編集を担うことになる。雑誌の趣旨や創刊号0号の内容(特集テーマは「エステティクスの臨界」)については、「website SITE ZERO/ZERO SITE」(http://site-zero.net/)をご覧いただきたい。あえて雑誌メディアを興す動機としては、若い書き手たちによる人文科学のまとまった論考や翻訳を発表する場の開拓があった。次号からは投稿を積極的に掲載する予定である。流通においても、取次を通さない新しい形態を模索している。

0号の巻頭言「批評零年」で「批評」という言葉を掲げたのは、この雑誌を学術誌と商業誌の狭間で問題提起をおこなうメディアと位置づけたからである。1980-90年代の『GS』や『批評空間』といった雑誌は、批評の好況期における出版資本の剰余によって実質的に支えられていた。それが食いつぶされたあとの現状だからこそ、いわばインディーズ的な遊撃戦によって、局所的にであっても、小さな戦いを粘り強く続けてゆきたいと思う。この雑誌は扱うジャンルを限定しない。また、左右どちらにせよ党派的なオピニオン誌になるつもりもない。むしろ、徹底して反時代的であることによって、現代の文化・社会状況を背後から照らし出すような、射程の広い論考を期待している。

道なき道を行く、知の孤独な長距離走者たちに伴走を強く望みたい。(田中 純)