新刊紹介

原 克 『ポピュラーサイエンスの時代――20世紀の暮らしと世界』
柏書房、2006年3月

本書は、20世紀大衆社会のメディア環境を背景にして、とりわけ日用品の中に投影された科学技術表象およびテクノロジー表象を、もっぱらそれらのユーザーとして定立させられてくる都市生活者の日常的身振りとの関係においてディスクール分析したものである。

分析対象は専門的な科学知識ではなく、20世紀大衆が共有した科学イメージつまり大衆化した科学情報である。本書ではそれを「ポピュラーサイエンス」と呼び、そのイメージ形成過程において、当該科学技術に直結した科学知識からくるデノテーションだけでなく、間接的に連動する言説のあらゆるコノテーションが複合的に作用しあい、科学イメージの形成に関与している事態を明らかにしようとしている。

特に日米独の通称「科学啓蒙雑誌」を分析対象として、記事本文や図版などをテキスト解釈学・図像学・メディア論の観点から多層的に捉え、正確な専門知識よりも、ときに誤謬をふくんだ「科学イメージ」の方が、大衆の生活習慣や価値判断に大きな影響を及ぼした過程を析出している。本書は、20世紀において科学表象が果たした「新たな神話作用」の分析というべきものである。(原 克)