新刊紹介

フレッド・アステア
『フレッド・アステア自伝―Steps in Time』
篠木直子(訳)、青土社、2006年10月

フレッド・アステア(1899-1987)は幼少時より姉アデールとダンスチームを組んで活動、ヴォードヴィルを経てブロードウェイに進出し、ロンドンでも成功を収めた。アデールが1932年に結婚・引退すると、翌年フレッドはハリウッドへ移り、ここでも大スターとなる。

原書の刊行はキャリアなかばの1959年。しかし、ミュージカル・スターとして精力的に活動していた年代は不足なくカヴァーされている。ジンジャー・ロジャーズとの一連の共演作品で映画界での地位を確立して以後の活躍は日本でもよく知られているが、本書前半(本文全体の6割近い分量)を占める舞台時代の記述も興味深い。20世紀初頭の英米ショウ・ビジネス界の事情がうかがえるほか、ガーシュウィン、ジーグフェルド、ノエル・カワード、さらには英国王室の人々など、きらびやかな登場人物たちに彩られ、ジャズ・エイジの匂いが華やかに立ちのぼる。そして、本書を自伝として何よりもユニークなものとしているのは、その名声におよそ似つかわしくないとさえ思えるアステアの極めて控えめな語り口だ。比類なきダンサーの半生が、出会った人々への感謝の気持ちとともに、感傷に流れることなく語られていく。彼のステップそのままの軽快さで。(篠木 直子)