新刊紹介

高橋透
『サイボーグ・フィロソフィー——『攻殻機動隊』『スカイ・クロラ』をめぐって』
NTT出版、2008年10月

近年目覚ましい発展を遂げている情報技術と先端医療技術は、私たちの生の条件をどのように変貌させつつあるのか。生活環境がすっかりビット化され、それとともに私たちの身体内部にまで様々なテクノロジーが浸透していくにつれ、私たちはもはや、これまでに自明のものとして捉えられてきた「人間」のイメージとはまったく異なる姿を身にまといつつあるのではないか。こうした一件荒唐無稽な問いを、哲学の問題として真摯に受け止めようとするのが、前著『サイボーグ・エシックス』に続く高橋透の課題である。そのために著者は、VR(ヴァーチャル・リアリティ)技術、ユビキタス・コンピューティング、BMI(ブレイン—マシーン・インターフェイス)技術、ナノテクノロジー、再生医療、などなどといった現在進行形でその応用可能性が拡張されつつある諸技術が、これまでのところ何を可能にしているのかを丁寧に解説したうえで、それらの諸技術がさらに発展した結果、私たちがどのような存在になりうるのかを考察している。その先に著者が垣間見る風景とは、機械と人間、人工と自然、情報と意識といった、私たち自身を外部としてのテクノロジーから区分してきた様々な境界の曖昧化ないし融合であり、こうした事態を著者は「サイボーグ化」と呼ぶ。『攻殻機動隊』や『スカイ・クロラ』に登場するサイボーグたちは、著者によればもはやSF的な空想ではなく、具体的な実現可能性の水準で論じられるべき私たちの生のあり方である。そして、そうしたサイボーグ化の末には、ひとつの身体にひとつの精神を宿すという人間の個体性そのものが自明なものではなくなってくると著者は説くのである。(門林岳史)