新刊紹介

篠儀 直子(訳)
ジョン・アンダーソン『エドワード・ヤン』
青土社、2007年12月

強烈な特異性と普遍性を持った作品を世に問い続け、昨年6月に59歳で他界した、映画監督エドワード・ヤンの全作品解題。とはいえ、イリノイ大学出版会から「Contemporary Film Directors」シリーズの一冊として刊行された原書は、ヤンが存命中の2005年に出版された。遺作となった『ヤンヤン 夏の想い出』について論じた文章のなかに、「この先まだまだ長く続くであろうヤンのキャリアにおいて、疑いなくここまでの時点における最高到達点」とあるのが、いまとなってはひどく悲しい。著者は映画研究者ではなく、一般紙誌にレヴューを執筆している批評家であるので、本書は学問的分析というよりも、一般読者に対する作品紹介書に近い。フィルモグラフィ、訳者あとがきを除いた全ページ数は約200ページ。そのうち冒頭30ページ強においては台湾現代史・台湾映画史が概観され、どのような文脈からエドワード・ヤンが出現したのかが論じられる。本書の白眉は、巻末に36ページにもわたって掲載されているロング・インタヴューだ。ここでのヤンの発言は、21世紀の映画と世界に対する彼の「遺言」として、分野を問わず多くの人々に読まれるべきものだと筆者は信じている。(篠儀直子)