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立命館大学アジア・日本研究所主催国際ワークショップ: How Can We Speak of War Memories Today? Reflections from Academic and Artistic Perspectives

報告:アルト・ヨアヒム

第二次世界大戦およびアジア・太平洋戦争終戦80年に関連して、立命館大学アジア・日本研究所(AJI)主催国際ワークショップ「How Can We Speak of War Memories Today? Reflections from Academic and Artistic Perspectives」が開催されました。本ワークショップは、2025年9月6日に立命館大学大阪茨木キャンパスにて英語で開催され、Zoomでも配信されました。本ワークショップには塚原真梨佳(立命館大学専門研究員)、前林明次(情報科学芸術大学院大学教授)、アルト・ヨアヒム(新潟大学助教)、洪 鈞元(台湾、国立中興大学准教授)、そして朴 洸弘(大阪公立大学後期博士課程)という5名が登壇し、21世紀の今、戦争はメディアおよびアートにどのように記憶されているかについて議論しました。

最初の研究発表は塚原真梨佳専門研究員によって行われました。塚原さんは映像作家の経歴があり、現在は歴史社会学・メディア史の観点から呉市海事歴史科学館(通称大和ミュージアム)を事例に、戦艦大和のような歴史的な象徴がどのように記憶され、そしてその記憶や語りがどのようにナショナリズムの文脈に置かれ、利用されているかを調査しています。このような研究に基づき、塚原研究員は、戦艦大和をめぐる「文化ナショナリズム」の構築において呉市のようなローカルな共同体の実践がいかに位置付けられるかを論じました。

第2発表は朴 洸弘さんが担当しました。朴さんは本来、大韓民国で海兵隊員に勤めたことがあり、現在、大阪公立大学の後期博士課程に在籍し、元旧日本軍兵士の記憶を研究しています。日本の元植民地である韓国出身であり、かつ兵役経験も有する朴さんは、元日本兵へのインタビュー調査を実施しています。そのため、取材者と被取材者の間には、旧植民地/本土の対立もある一方で、元兵士同士という共通点もあります。ただし、元兵士同士という共通点があっても、かつての被害者/加害者という立場の違いや対立が聞き取り調査を大きく妨害します。朴さんは発表において、第三者に普段アクセスができないフィールドワークとそのハードルについて語ってくださり、貴重な報告となりました。

次、新潟大学のアルト・ヨアヒムは「戦争アニメ」、つまり、第二次世界大戦/アジア・太平洋戦争の(ありえたかもという現実性がある)出来事を語る、戦後日本カートゥーン・アニメーションとそれらが日本国内における平和教育で果たしている役割について発表しました。「平和教育」は「平和国家日本」を構成するために、平和主義を内面化にした国民の共同体を育てることを目的しています。平和教育の第一手段となっているのは戦争体験者の証言ですが、朴さんの発表でも見えてきたように、終戦から80年が経過した現在、証言者の数が減っているだけではなく、今まで出てきた証言も、証言者の社会的な立場によって、事実とのズレが発生している可能性も指摘されてきました。他方で、戦争体験者の証言の聞き取りの次の手段として教育現場にて用いられる、証言に基づいて制作された「戦争アニメ」は、しばしば日本・日本国民を戦争の被害者として描きますが、これは「平和」を作るために有効なアプローチであり、時間の経過で色々な物語はバランスをとるように洗練されてきたことを指摘しました。

四人目の発表者は情報科学芸術大学院大学の前林明次教授でした。前林教授は現役のアーティストであり、今回の発表で近年に実施した二つのインスタレーション・アートのプロジェクト、「103.1db」、そして「AR朝鮮人追悼碑」を紹介しました。「103.1db」は2013年9月「おおがきビエンナーレ」で設置されたサウンド・インスタレーションです。体験者は103.1デシベルの音量(比較に、外で聞こえる高速道路の音量は90db程度)で、沖縄の米軍普天間基地で夜間にも発生する戦闘機の騒音の録音を聞かされ、戦争の遺産である基地は地元の方々の生活にどのような影響を与えているか、体感することができます。「103.1db」は日本人とりわけ沖縄の人々に対する米国の帝国主義の被害を描いているように読み解けます。他方で、「AR朝鮮人追悼碑」は複雑な事情の中、群馬県における日本の加害の隠ぺいの疑いを指摘しています。2004年に高崎市にある「群馬の森公園」で設置された朝鮮人追悼碑は、諸事情から2013年に設置許可の更新に至らず、2024年に高崎市によって撤去されました。「AR朝鮮人追悼碑」はその名のとおり、AR(Augmented Reality=拡張現実)の技術を使って、悼碑をヴァーチャル空間上に再建したプロジェクトです。前林教授の発表ではそれそれのプロジェクトの準備、実施、そして結果が具体的に示され、デジタルメディアによるアート表現が戦争の記憶をいかに賦活しうるかが論じられました。

最後の発表では、前林教授と同様に、現役アーティストとして活動する国立中興大学(台湾)の洪 鈞元准教授が登壇しました。洪准教授は、妻の祖父が留学生として経験した広島での被爆体験についての記憶の旅、つまり、作家自身が当時義祖父が訪れた場所や歩んだ道を再び体験する過程を撮影し、ドキュメンタリー映画として編纂するとともに、そのドキュメンタリー映画を中心としたインスタレーション作品「義方」の制作過程と制作意図について発表しました。

本ワークショップの各発表の間には接点も多く、発表後に登壇者の間に活発的な意見交換が続きました。それぞれの発表を文書にした論文集は2026年(月未定)、立命館大学アジア・日本研究所より『How Can We Speak of War Memories Today? Reflections from Academic and Artistic Perspectives(仮)』というタイトルで単行本として刊行される予定です。

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広報委員長:原瑠璃彦
広報委員:居村匠、菊間晴子、角尾宣信、二宮望、井岡詩子、柴田康太郎
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2026年2月28日 発行