遠くから来た きみの友だち
多和田葉子のドイツ語による作品 Deine Freunde aus der Ferneは、細川俊夫がルクセンブルクの現代音楽アンサンブル「ルシリン」から依頼を受けたことが発端となって生み出された子どものための音楽劇の台本である。複数の登場人物が出てくるが、語り手が登場人物の声も含めて朗読する形式で書かれている(多和田さん自身は、学校などの演劇の場で、複数の子どもたちが劇を行うことも想定している)。
その日本語への翻訳『遠くから来たきみの友だち』は、2025年4月4日に行われた成城ホールでの日本初演(世界初演はルクセンブルクで2021年12月4日)のために用意されたものだった。実際の上演では、ドイツ語にせよ日本語にせよ、子どもが楽しむには少し長すぎるという事情もあってテクストの一部を省略していたが、この書籍版ではもとの多和田葉子のテクストがすべて翻訳されている。
細川俊夫の音楽は、テクストのユニットごとに大まかに割り振られている。音楽のどの箇所でどの言葉を話すかということは、リハーサルの過程で決められていった。東京初演では、ピアノの北村朋幹が音楽・企画の中心となって演奏をまとめ、ソプラノの藤井玲南がすばらしい朗読を聞かせてくれた。
多和田葉子がドイツ語で執筆した作品は、日本の読者にはごく一部しか紹介されていない。この本は、そういったドイツ語作品の数少ない翻訳の一つということになる。子どものために書かれたものなので、さまざまな多和田葉子作品を読んでいる人にとっても、少し変わった手触りと思われるかもしれないが、それでもやはり、まさに多和田さんの作品だと全編を通じて感じられる。
訳者にとっては、「あしのゆびはアルファベット」(『多和田葉子の〈演劇〉を読む』谷川道子・谷口幸代編、論創社、2021年)に続いて、多和田葉子の子どものための作品の二つ目の翻訳となった。
(山口裕之)