ジブンの世界はジンブンでできている わかったことしか書かない哲学者×「研究」に興味がない考古学者×悩めるフィクション研究者
本書は、東京大学UTCP(共生のための国際哲学研究センター)の教員である梶谷真司および東京大学駒場博物館の教員である折茂克哉へのインタビュー、そして東京大学大学院人文社会系研究科の博士課程院生である岡田進之介を交えて開かれた鼎談会を収録したものである。
誤解を恐れずにこの本の内容を一言でまとめるならば、「人文学と挫折」である。執筆者はそれぞれ、人文学研究に携わりつつも、それに対して一筋縄ではいかない関係を築いてきた。梶谷真司は、中国哲学・ハイデガー研究を志しつつもそこから離れ、シュミッツ研究、そして現在のP4Cや哲学対話の研究にたどり着いた。また折茂克哉は、考古学研究者としてキャリアをスタートしつつも、現在は博物館の運営や展示の企画にやりがいと面白さを見出している。さらに岡田進之介は、文学者たらんという希望をもって大学に入学したが、文学研究から離れ、美学のフィクション研究を行っている。以上のように三人の人文学、あるいは学問とのかかわりには、一種の「挫折」や「転向」がある。
このような参加者のバックグラウンドが、収録された鼎談やインタビューにも表れている。三人は、本流ではない人文学のあり方、人文学と社会のかかわり、そして研究者としてのキャリアに至るまでを論じているが、そこで通底しているのは、「人文学研究は何をしているのか」「人文学研究にどんな意味があるのか」、そして「人文学によって世界とどうやって関わるのか」という人文学の営みに対するメタ的な問いだと言える。そしてそのような問いは、この三人だからこそ浮かび上がってきたトピックだと言えるだろう。
本書の特徴は、以上の問いに対して、参加者それぞれの研究に即して答えるというよりは、むしろ参加者のライフヒストリーを通じて答えを浮かび上がらせようとする点にある。インタビューや鼎談で語られる梶谷真司のベルリン留学の記憶、折茂克哉の博物館における経験、岡田進之介の幼少期の原風景を通じて、人文学の一つの姿が立ち現れる。本書はそのように、それぞれの研究者の人生が、いかに人文学によって形作られてきたか、あるいはむしろ、それぞれの人文学がいかに人生によって形作られてきたのかを示す著作だと言えるだろう。
(岡田進之介)