開催校企画ワークショップ アート+フェミニズム ウィキペディアエディタソン
日時: 2025年8月31日(日)13:30-18:00
場所::武蔵大学江古田キャンパス 11201
講師:北村紗衣(武蔵大学)
協力:早稲田Wikipedianサークル、稲門ウィキペディアン会
「アート+フェミニズム」は、ウィキペディアの各言語版で2016年から行われている、ウィキペディアの女性芸術家記事を編集するプロジェクトである。ウィキペディアにおいては人物記事のジェンダーによる偏りがかねてから指摘されており、言語版にもよって若干数字が異なるが、女性は人物記事のうち2割程度を占めるのみであると言われている。こうしたジェンダーギャップを減らすため、女性に関連する記事を編集するプロジェクトやイベントが複数存在しており、アート+フェミニズムはそうしたプロジェクトのひとつである。プロジェクト開始以来、さまざまなところでエディタソン(集まって編集をするイベント)が行われており、日本でもこれまで複数回行われている。今回の表象文化論学会では、大会シンポジウムやパフォーマンスがジェンダーと文芸をテーマとするものであったため、それにあわせて学会の一部としてアート+フェミニズムのエディタソンを実施した。
ウィキペディアは誰でも参加できるプロジェクトであるため、アート+フェミニズムのイベントも誰でも組織できる。しかしながら運営にはウィキペディアを編集した経験のある人々(ウィキペディアン)の支援が必要である。ワークショップ組織者である北村紗衣は武蔵大学に所属する開催校実行委員であったが、15年ほど日本語版ウィキペディアで活動して、これまでもアート+フェミニズムのイベントを数回組織している。また、ウィキペディアは編集をする時にさまざまな決まりがあるため、まったく編集したことがない初心者の参加が見込まれる場合は指導員として複数名のウィキペディアンが必要である。今回のエディタソンではボランティア指導員として、早稲田Wikipedianサークル及び主にその卒業生を中心とした団体である稲門ウィキペディアン会の支援を受けて開催することとなった。ウィキペディア執筆には出典として使用する資料が必要であるが、この日は日曜日で武蔵大学図書館が閉館していたため、事前に北村が図書館から借りだしていた30冊ほどの美術関連書籍を前に並べ、誰でも自由に見て出典として使用できるようにした。
今回のエディタソン参加者のうち4分の3程度は既にある程度の編集経験がある非学会員のウィキペディアンであり、学会員などあまり編集をしたことがない研究者の参加は4分の1程度であった。この種のエディタソンは10名程度しか集まらないこともあるため、20名以上が参加して教室がほぼ満員になった今回のイベントは想定したよりも参加者が多く、非常に盛況であった。一方でウィキペディアに初めて触れる学会員の参加は予想より少なく、ベテランウィキペディアンが黙々と記事を編集するのが中心のイベントとなった。
最初の30分ほどは北村がウィキペディアの基本的な書き方やルールについてレクチャーを行った。ウィキペディアには複雑なルールがあり、出典の重要性や、記事が削除されないためにはどうするか…といったことがらを事前に理解しておく必要がある。このレクチャーでは記事の作り方のデモとして、北村があらかじめ作っていた[[ジャネット・ソーベル]]の記事を日本語版に新規アップロードした。さらにウィキメディアのファイルリポジトリプロジェクトであるウィキメディア・コモンズに、学会のプログラムの一部として行われていた展示「SOS 応答と対話で「何か」を探す」展の屋外展示の写真をアップロードするところを参加者に紹介した。
レクチャー終了後、3時間半にわたってウィキペディアを執筆する時間がとられた。通常、エディタソンは最低でも2~3時間の執筆時間が必要とされる長丁場であり、学会ではセッション2つ分の時間を使って実施された。この3時間半を使って、初心者のウィキペディアンはボランティア指導員の支援を受けて既に存在する女性芸術家人物記事の加筆や写真のアップロードなどの活動を行い、ベテランのウィキペディアンは自分のペースで記事執筆を行った。終了1時間前の17時頃には、ちょうど来日中であったウィキメディアマレーシアのメンバーであるアフマド・アリ・カリムと2023年にウィキメディアン・オブ・ザ・イヤーに選ばれたタウフィク・ロスマンがゲストとして来訪した。17時半からはこの種のエディタソンでは通例である、作成した記事やそれに関するコメントを共有するまとめの会が行われた。
成果としては、後日完成したものやオンライン参加も含めて14本の新規記事が立項され、この他にも多数の記事への加筆が行われた。新規記事のうち、8本は日本語版ウィキペディアのメインページに掲載される新着記事に選ばれた。また、指導員として参加した稲門ウィキペディアン回のEugene Ormandyさんがウィキメディア活動全般のブログであるDiffにこのイベントのウィキメディアン向け報告エントリを執筆してくださった。1回のエディタソンとしては非常に多い成果であり、日本語版ウィキペディアの芸術記事の充実に貢献できたと言える。
このようなイベントを学会で行う意義としては、通常はあまり有機的に接続されていないウィキペディアとアカデミアをつなぐということがある。今回は学会員の参加者は少なかったとはいえ、研究者に多少ウィキペディアのことを理解してもらい、編集に携わってもらうということはできた。今後もなんらかの形で研究者の知識をウィキペディアに還元できるような企画を実施していきたい。
ワークショップ概要
アート+フェミニズム(英語: Art+Feminism)は2016年から世界中で行われている、ウィキペディアの女性芸術家記事を編集するプロジェクトである。大会シンポジウムのテーマにあわせて、学会の一部としてアート+フェミニズムのエディタソン(集まって編集をするイベント)を行う。ベテランのウィキペディアンによる指導があるため、全くウィキペディアを編集したことがない初心者も参加可能である。