ジャン゠リュック・ゴダール──思考するイメージ、行動するイメージ
本書の著者ニコル・ブルネーズは、フランスの映画研究を牽引する研究者の一人であると同時に、ラディカルな実験的映画の数々を世に知らしめる上映活動の精力的な組織者であり、さらには『イメージの本』(2018)以降、最晩年のゴダールの密接な協力者の一人でもあった。本書はそのような著者の多面的なゴダールとの関わりを余すところなく伝えるユニークな成果である。
ここで提示されるのは、ヌーヴェル・ヴァーグの旗手としてのゴダールというありきたりな像ではなく、形式面での革新をたえず現実の変革への政治的な意志と結び付けてきた革命的映画作家としてのゴダール像である。しかも、ジガ・ヴェルトフ集団期のようなあからさまに政治的な時期だけでなく、政治性を失ったかにみえる1980年代以降の作品にも根源的な次元での政治性が作動していたというスタンスが本書全体の前提になっている。ダマスコスのヨアンネスによる聖像擁護論やドイツ・ロマン主義の言説を引き合いに出しつつゴダール作品が思弁的に論じられるときにも、つねに「実践」を志向する映画作家の像が見据えられているのである。
こうしたハードコアな議論が展開される一方で、本書には協力者としての彼女がゴダールから受け取った58通のメールやメッセージも収録されている。いずれもイメージと言葉が頓知のように組み合わされ、ゴダールが〈機知〉を日常的に実践していたことが窺える貴重な資料である(本訳書では、1通ごとに訳者による解説を付した)。
ゴダールが自分の写真にiPhoneでペイントを施した表紙カバーの「自画像」も、老いてなお脳内から着想が奔流のように溢れ出るさまを示唆しているようでもありインパクトがある。そのイメージに違わず無数の着想が渦巻く本書からは、読者もまた何らかの仕方で触発されるはずである。
(堀潤之)