編著/共著
地球の文学
東京外国語大学出版会
2025年3月
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ダムロッシュの『世界文学とは何か?』以降(とくにその日本語版が刊行された2011年以降)、「世界文学」を冠した書籍が日本でも次々と出版されてきた。本書は東京外国語大学の教員・元教員を中心とした、さまざまな言語圏・文化圏の26名の研究者による文学エッセイ集である。ダムロッシュ以後の世界文学をめぐる議論を念頭に置いているとしても、ここでの執筆者たちのそれぞれの文学との関わり方は、いわゆる「世界文学」とはかなり異なるものであるように思われる。その一番のちがいは、文学の流通(とくに英語による)に関心を向けるというよりも、むしろもとの言語の中で息づく、広い意味での地域研究者のまなざしがそこにはつねにあるということだろう。執筆者のほとんどは文学を専門領域とする研究者だが、同時にまた、多かれ少なかれ、それぞれの言語圏・文化圏に関わる地域研究者としての感覚をもちつつ文学に向き合っている。本書は、そのような感覚に支えられて、さまざまな文化圏における文学の多彩な姿を浮かび上がらせている。そのような地域による区分の中で見えてくる文化的多様性と同時に、本書は「翻訳」「モダニズム」「詩」「政治」「歴史」といったゆるやかなテーマの括りを交差させている。
(山口裕之)