新刊紹介

岡田 温司
『処女懐胎―描かれた「奇跡」と「聖家族」』
中公新書、2007年01月

『処女懐胎』と名づけられた本書は、「聖家族」と呼ばれる、ある「家族の運命」を豊富な図像を介して教えてくれる。「聖家族」、つまり、イエス・キリストと呼ばれた男の家族の構成員は、夫ではない何ものかによって妊娠した母マリアと、いわば私生児を身ごもった妻を娶った養父ヨゼフであるが、本書は、考察対象として、三度の結婚を繰り返した母方の祖母アンナも加えている。こうして改めて見ると、実に多くの火種を抱え、崩壊せずにひとつの共同体として維持されたことが奇跡のような家族である。筆者によれば、この家族は、その解釈史を通じ、開くヴェクトルと閉じるヴェクトルの両運動を包摂してきた。閉じるヴェクトルとは、この家族が、歴史上幾度も、ある集団や国家の排他的統一性を強化するためのイデオロギーとして利用されたことを意味する。反対に、開くヴェクトルとは、「聖家族」の構成員が各々多義的な役割を担ったことを意味する。乙女であると同時に母であるマリア、寝取られ夫でもあるが頼りになる父でもあるヨゼフ、野生的で逞しいアンナは同時に立派な教育者でもあった。本書が紹介するこうした極めて豊富で多義的なイメージ群は、「家族」という共同体が本質的に持つ「過剰さ」を示しているように思われてならない。この「家族」の過剰さは、とりわけ身近なものとして立ち現れる際に、大いに私たちを意気阻喪させるものだが、本書が事例として取上げる図像は、その面白さゆえに、「家族」について倦まずに考え続けるよう促してくれる。ちなみに本書の「あとがき」には、筆者の昨今の日本の家族問題への憂慮が慎ましく述べられおり、感動的である。 (柳澤田実)