編著/共著

小城大知、熊谷宏彰、中畑智、細村悟人(著)福井健一郎 (編)

コロナ世代、映画で闘う 映画『突然失礼致します!』制作秘話

NextPublishing Authors Press
2022年4月
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本書について紹介する前にいくつかの背景事情を説明しておく必要がある。2020年2月から急速に拡大したCOVID-19感染症の影響で、大学がオンライン授業に切り替わり多くの学生が大学に行かないという状況が発生したが、学生に真っ先に影響を与えたのは課外活動(部活動やサークル活動)の大半が中断し、大会やイベントの中止や延期、大学祭等の学内交流が停止したことだった。その中で多くのサークルや部活が廃部の憂き目にあったという。

しかしそのような状況下でも「オンラインを用いた交流」というのが活動で模索された。その中で2020年、当時群馬大学の学部学生だった熊谷宏彰の主導の元オンラインというツールを活用した映画制作が行われた。『突然失礼致します!』と名付けられた本作品は、リモートでの制作、1分以内の映像、1つのテーマ、撮影は屋内のみという条件の元180の大学のサークルの作品を集めた195分のオムニバス映画である(その後劇場公開にあたって90分に編集が行われた)。資金集めもクラウド・ファンディングを用いて行い、公開も2020年8月に2か月間YouTubeを用いた作品公開を行ったあとに翌年より順次劇場で公開するという特異な手法がとられた。本書はその作品の公式記録であり、関係者の寄稿・インタビュー・対談によって構成されている書物である。

アマチュア映画としての「学生映画」というジャンルは、得てして学生生活の思い出作りの一環などの小さな目的で作られることが多く、学生映画を集めた専門映画祭が存在する都市部の大学を除いて大規模に公開されることは極めて少ない。だが本作品は、製作委員会の公開方針により、上映活動やストリーミング配信によって結果としてサークル活動以上の動きを各大学にもたらすことにつながった。「自粛」が促される当時の状況の中で生み出された作品の公開は大学の広報活動ともつながり、サークル活動再開のモデルケースになった事例もあるという。

だが本書は単なる「学生映画」礼賛にとどまらず、その課題も明らかにしている。対談では本作品に携わった後に大学を卒業してからも映画の制作を続けている二人の映画作家によって学生映画の様々な課題が浮き彫りになったことが示されている。

また本映画の製作を通して学生たちの目に映し出されたものが学生たちへのインタビューの中で明らかにされる。インタビューを通して彼らは、課外活動の停止やオンライン授業化による孤独といった大学生活における悩みから、奨学金や補助金制度の不備やコロナ対策といった政治に対する不満といった社会情勢への不安にいたるまで、日本社会がはらむ様々な問題を正面から浮かび上がらせていく。本書は、ある一つの「学生映画」の作品の完成に至る活動報告にとどまらず、コロナ禍の大学や社会の中で「いかに創作を行うか」という難題に向き合った学生たちによって大学の今を告発したアクチュアルな記録である。

(小城大知)

広報委員長:増田展大
広報委員:岡本佳子、鯖江秀樹、髙山花子、原島大輔、福田安佐子、堀切克洋
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2022年10月23日 発行