翻訳

ステファヌ・ルルー(著)、岡村民夫(訳)

シネアスト宮崎駿 奇異なもののポエジー

みすず書房
2020年10月
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本書はフランス語圏における宮崎駿論の嚆矢にほかならない。おもに扱われるのは、宮崎が「場面設計」をした東映動画作品『太陽の王子 ホルスの大冒険』からスタジオジブリにおける6作『千と千尋の神隠し』まで。ルルーが宮崎の新しさとして注目するのは、ファンタジーや冒険活劇のなかで「驚異」を単純に盛りたてず、ポール・グリモーや高畑勲に由来する映画的リアリズムを対位法的に導入し、アニメ的出来事に実在感をもたらしているという側面である。その導入の様態に準じ、宮崎の創作活動が三期に分節される。(1) アクションコメディの時期:緻密な空間設計に基づいたスラプスティックが展開する。(2) 「自然なもの」をはらんだ冒険活劇の時期:弛緩した時間がシリアスな活劇を中断する。(3) 「奇異なもののポエジー」が顕著な時期:生活描写が増え、「驚異的なもの」と日常的シチュエーションのと共存から「ポエジー」がほとばしる。

ルルーは宮崎的リアリズムを、はずれたフレーミング、つなぎ間違い、ドラマに無関心なエキストラやクリーチャー等を駆使した演出の「効果」として捉え、作品を繊細かつ緻密に分析する。かくして本書は日本の宮崎駿論の通弊である精神論に陥らず、宮崎アニメをアニメーション史・映画史のなかに説得的に位置づけているのである。

岡村民夫)

広報委員長:香川檀
広報委員:白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2021年3月7日 発行