翻訳

ジュディス・バトラー(著)、大河内泰樹、岡崎佑香 、岡崎龍、野尻英一 (翻訳)

欲望の主体 ヘーゲルと二〇世紀フランスにおけるポスト・ ヘーゲル主義

堀之内出版
2019年6月
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ジュディス・バトラーの博士論文として知る人ぞ知る一冊である。ヘーゲル研究を専門とする四名による翻訳で、ついに邦訳が出た。ジェンダー理論の思想基盤を担う論客バトラーがヘーゲル研究から出発しているという事実には、意想外の趣もあろう。旧来の西欧近代哲学の権化であると見なされるヘーゲルをなぜバトラーが論じるのか。その秘密を知るには、本書を繙く以外にない。バトラーは、イポリット、コジェーヴ、サルトル、ラカン、フーコー、デリダ、ドゥルーズらを順次取り上げながら、近代哲学を批判し逃走しようとする二〇世紀フランスの諸思想が、実はことごとくヘーゲルの「否定性」の概念に取り込まれていく様を一連の喜劇として描写する。これは、読者みずからが「読む」ことによって起動させるシステムとして書物を構成するという前代未聞の叙述=装置(『精神現象学』)を発明したヘーゲルに抗い、そのトラップから脱出する途を示そうとした若きバトラーの革命の試みなのだ。ポストモダン思想をふまえたヘーゲル入門書としても最適。

(野尻英一 )

広報委員長:香川檀
広報委員:白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2019年10月8日 発行