単著

田中祐理子

病む、生きる、身体の歴史 近代病理学の哲学

青土社
2019年5月

私たちの身体を取り巻くさまざまな知。その知はどのように生み出され、変容してきたのだろうか。本書は、身体をめぐる今日的な知の形成において重要な転換を用意した過去の出来事とそれをめぐる人々の思考を辿り、その知に立脚した私たちの「当たり前」に揺さぶりをかけようとする、著者の思考の集積である。

ハーヴィによる血液循環の発見と「中心」としての心臓、レーフェンフックの顕微鏡が開いた人体のミクロの視界、細菌を病原体と同定したパストゥールとコッホ、19世紀の医学によって用意された「1900年的臨床身体」、臨床医学の誕生をめぐるフーコーの議論、20世紀の感染症としてのエイズと隠喩、ピエール・ジャネによる「疲れるべき人間の生」の発見と治療、「らい」と日本社会、バイオテクノロジーとアメリカ科学史・・・多岐にわたる主題から、「生きているもの」と「身体」をめぐるいくつもの描像が描き出されていく。

それは、いったん生まれてしまい、そしてまだ生きている、長い「壊れかけ」の時間をめぐる哲学であり、その「壊れかけ」の時間を名づける言葉を探す旅でもある。医学の言葉の網の目に絡めとられてがちがちにされてしまったような私たちの身体。それは本来私たちの、いかようにも自由な哲学的考察の対象となりうるものであったことを思い出させてくれる本書は、読者を「想像もつかない」世界へと誘う。

(中尾麻伊香)

広報委員長:香川檀
広報委員:白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎、鯖江秀樹、原島大輔、福田安佐子
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2019年10月8日 発行