単著

岡村民夫

立原道造 故郷を建てる詩人

水声社
2018年6月

立原道造はなぜ、詩人でありかつ建築家でなければならなかったのか。岡村民夫による『立原道造──故郷を建てる詩人』(水声社、2018年)は、この問いに最も包括的かつ緻密に答えようとしている。立原の詩法に関してなら名木橋忠大の『立原道造の詩学』(双文社出版)が、建築計画に関してなら種田元晴の『立原道造の夢見た建築』(鹿島出版会)が、より踏みこんだ分析に取り組んでいると言うべきではある。しかし岡村の功績は、言葉と物のイロニーのはざまに立ち続けた立原が詩と建築に引き裂かれざるを得なかった様態を、生きたまま抽出し得たことにある。

新しい故郷を建てること。立原はそのために詩と建築に引き裂かれざるを得なかったと岡村は考える。建築の物質的現前によって現象しうる時間性の中にのみ、立原詩学が求める郷愁が雰囲気として生成する。だからこそ詩と建築は、立原にとって郷愁を生成させる合わせ鏡の幻灯機のような関係を持たざるを得ない。かつて中世において和歌の生成と作庭術が分ち難く結びついていたように、立原の詩学と建築術とは根底において接続していたのである。詩と建築という異なるメディウムを横断する勇気と知的冒険が可能にした、スリリングな書物である。 

(後藤武)

広報委員長:香川檀
広報委員:利根川由奈、増田展大、白井史人、原瑠璃彦、大池惣太郎
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2018年10月16日 発行