単著

武田義明

風の街・福岡デザイン史点描

花乱社
2017年10月

本書は近代から現代へいたるデザインの歴史を、福岡を舞台に描き出すものである。いわばデザインの地方史と言えるが、本書のデザインをとらえる視野はひろい。福岡で活動し多くの人々に影響をあたえた、グラフィックデザイナー西島伊三雄、工芸デザイナー柏崎栄助、デザイン評論家で九州芸術工科大学初代学長をつとめた小池信二の三者の活動をひとつの軸としながら、グラフィックや都市の景観、デジタルソフトウェア、一世を風靡したインテリアショップNIC、日本ではじめてのデザインの国立大学である九州芸工大など、多様なデザインの射程と、それを支えた人々と場所の息吹が語られる。その所々に、福岡博多区に生まれ、九州芸術工科大学の二期生であった著者ならではの観察がうかがえる。

興味深いのは、モダニズムの波及と高度経済成長や情報革命にともなう産業構造の変容という全国的・全世界的な傾向のなかで、東京というひとつの中心、さらにはデジタル技術によって世界の動向と関係を結びながら、福岡という土地にねざしたデザインがいかにうまれてくるのかという視点である。本書においてそれは、デザインを作り出す人々と、人の集う場所に宿り、そのあいだから生まれてくるように見える。本書はこうした多様な福岡のデザインの歩みに多義的な〈風流〉の名をあたえている。この語〈風流〉のうちには福岡の区画・共同体を示す古い言葉である〈流(ながれ)〉が重ねられ、自然と人為のあいだで人生と生活とをつなぎ、より良い生をつくろうとする希望のいとなみとしてのデザインの〈風〉が想起されてくる。

本書で紹介された状況は、1997年におけるNICの閉店、2003年における九州芸工大の九州大学への統合に象徴されるように、今日では大きく変わってきて/変わらざるを得なくなっていよう。それにともない本書のとりあげた時代の状況も急速に忘れられていく端境期にある。本書で描かれるいち都市福岡に息づいたデザインの〈風〉は、〈風〉をやませることなく次代へつなぐためのこころみとなるだろう。

(向後恵里子)

広報委員長:横山太郎
広報委員:柿並良佑、白井史人、利根川由奈、原瑠璃彦、増田展大
デザイン:加藤賢策(ラボラトリーズ)・SETENV
2018年2月26日 発行