7月5日(土) 東京大学駒場キャンパス18号館ホール
16:00-18:00

19世紀後半に生まれた録音・再生テクノロジーは、2010年代もなかばの今日、その姿を大きく変えつつあるように思われる。アナログ・レコード、そしてCDというデジタル・メディアを通じて一貫してきた「ディスク」という物質的条件は徐々にその姿を消し、インターネットというデジタルインフラに接続されたモバイル端末を含む高速・高容量の情報処理機械=コンピュータが、急速に音響再生そして音楽受容の舞台となりつつある。聴覚メディア環境のこうした変容は、音楽の未来、そしてそれを受容するわれわれの耳の未来を、どのようにかたちづくろうとしているのだろうか。
本日は、1980年代からミュージシャン・録音エンジニア・音響空間デザイナーとして第一線で活躍されてきたオノセイゲン氏をお迎えし、来るべき音楽、そして来るべき「聴くこと」のあり様を展望してみたい。前半のライブでは、「SEIGEN ONO Plus 2014 featuring NAO TAKEUCHI and JYOJI SAWADA」という本日限定のバンド演奏を、最新のサラウンドPAシステムとともにご披露いただく(技術協力:富士通テン株式会社)。アコースティックな響きとテクノロジーとの一期一会の絡み合いを、存分にお楽しみいただきたい。続いて後半のアーティスト・トークでは、デジタル・テクノロジーの黎明期から音楽制作に携わってこられたオノ氏の歩みを振り返りつつ、技術環境の変化が〈演奏〉〈録音〉〈再生〉それぞれの営みに与えつつあるインパクトの特質とその意味を探ってゆく。いかなる「メッセージ」を、このメディア変容がもたらそうとしているのか――それを幾らかなりと聞き届けることが、このセッションの目的である。

ライブ:SEIGEN ONO Plus 2014 featuring NAO TAKEUCHI and JYOJI SAWADA
  オノ セイゲン(チャランゴ、ギター)
  竹内 直(バスクラリネット)
  沢田 穣治(コントラバス)

アーティスト・トーク:オノ セイゲン(聞き手 福田 貴成)

オノ セイゲン Seigen Ono|ミュージシャン/音響空間デザイナー/録音エンジニア
ミュージシャンとして、1984年にJVCよりデビュー。1987年に日本人として初めてヴァージンUKと契約。Seigen Ono Ensembleは、93年にスイス、モントルー・ジャズフェス(4回)ほか出演。1987年に川久保玲から「洋服が奇麗に見えるような音楽を」という依頼により作曲、制作した『COMME des GARÇONS SEIGEN ONO』『Bar del Mattatoio』ほか多数のアルバムを発表。ジャン・クリストフ・マイヨーの「モンテカルロバレエ団」、フィリップ・デュクフレの「DCA」ほか、国内外のダンスカンパニーなどにも委嘱作品を提供。音響空間デザイナーとして、ミラノサローネほか多数のプロジェクトをサポート。東京都現代美術館、シャルジャビエンナーレ11にて「Silent Spin」(w. 坂本龍一+高谷史郎)を出展。録音エンジニアとして、1982年の坂本龍一『戦場のメリークリスマス』にはじまり、渡辺貞夫、ジョン・ゾーン、アート・リンゼイ、マンハッタン・トランスファー、オスカー・ピーターソン、キース・ジャレット、マイルス・デイビスなど多数のアーティストのプロジェクトに参加。1996年サイデラ・マスタリング開設。ハイレゾ、DSD、高さ方向含む立体サラウンド、音響空間などのアプリケーション開発を伴う小規模で最先端のスタジオを拠点とする。

竹内 直 Nao Takeuchi | バスクラリネット奏者
1977、1986年にニューヨークに滞在。帰国後、エルビン・ジョーンズ・ジャパニーズ・ジャズマシーンに参加。フレディ・ハバード(tp)と共演。90年代半ばからテナー・サックスによる無伴奏ソロを開始。2002年には山下洋輔ユニットの一員としてヨーロッパ・ツアーを敢行。2008年、セネガルに滞在し、世界的打楽器オーケストラのドゥ・ドゥ・ンジャイ・ファミリーと親交を深める。2008年、天河神社にて奉納演奏。リーダーアルバムとして最新作『セラフィナイト』を含む10枚をリリース。

沢田 穣治 Jyoji Sawada | 編曲家/コントラバス奏者
Choro Clubのベーシスト。作編曲などや様々なアーティストのプロデュースなど。アントニオ・カルロス・ジョビンの作品集『Canta Jobim』、2011年の震災を受け止めて音楽として昇華した『NO NUKES JAZZ ORCHESTRA』『武満徹ソングブック』、ピアニスト中川瑞葉による日本初録音となるジョージ・クラム作曲『マクロコスモス II』などをプロデュース。海外ではアルゼンチンやブラジルの音楽家からの信頼もあつく、サイモン・フィッシャー・ターナー、ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート、ジョアン・リラ、フェルナンド・カブサッキ、アントニオ・ロウレイロ、アンドレ・メマーリ、ヴィニシウス・カントゥアリアなど、レコーディングやセッションを重ねている。作曲家として、横浜市文化振興財団作曲家シリーズで選出されたほか、フォンテックから室内楽作品集『silent movie』 もリリース。現在の活動ユニットは、即興的3ピースユニット「MELT」、有末剛氏との「東京縛音舞」や、民謡、昭和歌謡などを発掘し取り上げている「カデルノジャポニカ」などがある。